前回予告しましたように、水着の進化とともに、どのくらいタイムが短縮されたのかをご報告します。日本人の金メダリストに限定して記録を比較しようと調べてみましたが、なかなか同種目の実例がみつけられませんでした。

 少し、1964年東京五輪より遡ります。1936年ベルリン五輪において女子200m平泳ぎで、前畑秀子選手が日本女性史上初の金メダリストになりました。NHKの河西三省アナウンサーが「前畑がんばれ!前畑がんばれ!」を20回以上連呼した実況中継は、歴史的名シーンとして現在でもしばしばテレビで放映されます。

 前畑秀子選手の記録は3分3秒6。当時は、男子水着もワンピース型で、天然繊維製で水を含んでしまう、重い水着でした。56年後の1992年バルセロナ五輪で、同じく200m平泳ぎでは、中学2年生の岩崎恭子選手が金メダルに輝きました。「今まで生きて来た中で一番幸せです」も人々の記憶に残る言葉でしょう。記録は2分26秒65でした。

 この40秒近いタイム短縮は、水着の進化だけによるものだとはいえません。トレー二ング方法や、理論などさまざまな要因があります。ただ、先行研究の結果を見ても、科学技術の進歩による水着の進化とタイム短縮に、相関があるのは明らかのようです。

 これまで本連載「スポーツをテクノロジーする」では、特にゴルフ編において、テクノロジーの進化に対して競技団体はルール改正という形で対応し、そこに“いたちごっこ”が生じていることをお伝えしてきました。では、水泳界においては、このような水着の進化に対してどのようなルールが設けられてきたのでしょうか。