──もう1つの「予測」とはどのようなものですか。

皆川氏:予測は、文字通り次にどうなるかを見通すことです。あなた競馬は好きですか? 実は競馬ファンには多変量解析が向いていると思います。馬、騎手、馬場…といったデータ(変数)を使って多変量解析を行うと、着順が予測できるからです。これぞまさに多変量解析の「予測」を分かりやすく説明する好例です。

 中古のマンションの価格も導き出せます。多変量解析を利用すれば、通勤時間や部屋の広さ、築年数などのデータから価格(推定価格)を予測できるのです。この推定価格と不動産業者が提示している価格を比較すれば、自分が目を付けた物件が高すぎるのか、それともお買い得なのかが分かるというわけです。これであなたも不動産業者にふっかけられることはなくなります。

 トヨタグループでは、この予測を実によく使います。例えば塗装の膜厚の予測。塗料の希釈率、塗料の粘度、吹き付けガンのスピード、吹き付けガンとボディーの距離などのデータから、多変量解析を使って膜厚がどうなるかを予測するのです。これにより、ばらつきのない均一な膜厚を得ることができます。逆に、実現したい膜厚から塗装条件を導き出す際にも、多変量解析は使えるのです。

 なお、多変量解析ではこうした塗装条件を「説明変数」、膜厚を「目的変数」と呼びます。

──トヨタグループにとって、多変量解析はどのような位置づけなのでしょうか。

皆川氏:トヨタグループの技術者で多変量解析を使わない人は、まずいないと思います。特に、設計部門と製造部門ではよく利用されています。使わないと設計値も製造条件も決めることができないからです。つまり、設計も製造もできない。ものづくりができないのです。

 山積みのデータから多変量解析を使って最適値を絞り込む。そうしたことはトヨタグループでは日常的に行っています。決して特別な道具ではなく、電卓のように身近な道具です。逆に、なぜ身近かと言えば、実務にバリバリ使えて便利だからです。