──SQCを使わなくても製品を造れるのであれば、わざわざ学ぶ必要はないと考える人がいても不思議ではありません。SQCを使わないままでいると、どうなるのですか。

皆川氏:SQCを使わなくても、一応形にすることはできる。ところが、品質については危うい状態です。品質は嘘をつきません。品質は正直なので、製品が市場に出てから品質の足りないところが不具合となって表れる危険性があります。逆に、SQCを使えばこうした不具合を未然に防ぐことができます。

 もう少し、具体的に説明しましょう。SQCを使わなければ、データはばらついたままです。データには、平均値とばらつきが含まれます。例えば、弓道を考えましょう。的に対して矢はばらつきます。例えば、全体に中心から上方にばらついたとする。ここで、一般の会社は狙いを変えます。ばらついた円の大きさはそのまま、すなわち、ばらつきがあることは放置したまま、狙いを下に定めます。

 しかし、ばらつきを放置したまま狙いを変えるだけでは、ピンポイントで狙わないと的(合格の範囲)から外れてしまいます。それでも、通常はばらつきを小さくすることをしない。例えば、検査ではねるといった方法を採る。これでは不良品や造り直しが増えてしまいます。

 トヨタグループではこうした方法は採りません。まず、SQCを使ってばらつきを小さくします。そのために、立ち方や弓の強さ、矢の形状などを最適化します。こうすると、狙いが多少外れても的(合格の範囲)に当たる確率が高まるのです。これがトヨタ流です。

 狙いを変えてからばらつきを小さくする方法も考えられます。しかし、実は、後からばらつきを小さくする方が難しい。精度を高めてから、真ん中(平均値)を狙う方が中心に当たりやすいのです。この方が結果的に早く到達する。ゴルフや野球の投球でもそうではありませんか?

 この理由は、ばらつきが大きいと真ん中(中心値)がどこかが分からないからです。そのため、トヨタグループでは、まずはばらつきを小さくして中心値を明確にしてから、狙いを定める方法を採るのです。