トヨタグループが取り組む「QCストーリー」は、一般に知られるPDCAサイクルとは違う点があるのでしょうか?

皆川氏: PDCAサイクルを回していく点は同じです。手順とやり方を明確に定めたものが「QCストーリー」の特徴です。最も大きな違いは、P(計画)にじっくりと時間をかけることです。設計のフロントローディング化と同じだと言えば、分かってもらえるでしょうか。

 ここで考えてみてください。「散らかった会議室」があるとします。これの何が問題でしょうか。テーブルに資料や物が乱雑に置かれています。そこで、これらを片付けました。さて、これで本当に問題は解決したのでしょうか?

きちんと整理・整頓したのであれば、それでよいのではないでしょうか。

皆川氏:いいえ、これでよいとは言えません。本当の問題は散らかっていることではないからです。会議室は何のためにあるのでしょうか。みんなで議論するためですよね。確かに、散らかった物を片付けるのは当然です。しかし、本当の問題は「活発な議論が行えるようにすること」ではありませんか? そうだとすれば、パソコンが必要なのではないでしょうか。ホワイトボードはありますか。プロジェクターは設置されていますか。

 実は会議室として「あるべき姿」がないと、問題が分からないのです。問題とは、あるべき姿と現状とのギャップだからです。多くの人が「問題、問題」と口にしますが、それが本当に問題なのかを考える必要があります。「QCストーリー」ではまず、ぼんやりとした問題意識の中からテーマを選定することにじっくりと取り組みます。ところが、多くの人がよく検討せずにテーマを決めてしまいます。

 こうしてテーマを決めた後にも、大切な点があります。それは、目標を設定することです。目標がないとスタートを切ることができません。従って、「何を」「どれだけ」「いつまでに」という目標をきちんと決める必要があります。「何を」と「どれだけ」を決めても、「いつまでに」というのが意外に抜けてしまう傾向があります。また、この「いつまでに」の設定次第で目標の難易度が変わります。

 例えば、生産性向上をテーマに設定する場合は、「生産のポテンシャル値を5%、来年の3月までに高める」といった具合に目標を決める必要があります。ところが、こうした定量化した目標がなく、なりゆきで「とにかく生産性を上げよう」という“目標”を掲げるケースが多いのです。そうではなく、問題を明確にし、目標も明確に決めることが大切です。