PDCAサイクルは有名で、日本企業の中で知らない人はいないと思います。実務においてPDCAサイクルを回している企業は多いのでは?

皆川氏:確かに、「PDCAサイクルを回していますか?」と聞くと、「もちろんです」という言葉が返ってくることは日本企業では珍しくありません。でも、中身をよく聞いてみるとPDCAサイクルを回しているつもりの企業が多いと感じます。

 その証拠に、順序立てて(きちんとステップを踏んで)PDCAサイクルを進めていません。加えて、定量的に進めていくこともできていないことが多い。こうなってしまう最大の理由は、「見える化」ができていないから。問題が何かを明確にしていないため、P(計画)を立てられないのです。

 きちんとP(計画)を立案し、順序立てて定量化してPDCAサイクルを回す、すなわち「QCストーリー」を回さないと、どこに進んでいくか分かりません。それこそ、地図も羅針盤も持たずに富士山の麓の青木ヶ原樹海を歩くようなもの。自分はゴールに向かって歩いているつもりでも、実際は運任せで進んでいるだけ。これに対し、「QCストーリー」では「あの山の頂に、何月何日までに到達しよう」と決めたPDCAサイクルを回していきます。

 PDCAサイクルを言葉としては学んでいても、実践的な手順について分かっていない人が多いと感じます。PDCAサイクルを回しているという管理者に、「では、目標は何ですか?」と聞いても、「特にありません」という回答を意外に耳にします。目標がないのに、管理しているとは言えません。なぜなら、目標値と現状のギャップを補正するのが管理だからです。この場合、なんとなくPDCAサイクルを回している気になっているのでしょう。

トヨタグループの中で「QCストーリー」はどのような位置づけなのでしょうか。

皆川氏:トヨタグループの中では「QCストーリー」によって仕事を進めることがごく当たり前になっています。日常的に使っている手法のため、トヨタ自動車であれば「トヨタ流仕事の進め方」と、デンソーなら「デンソー流仕事の進め方」と表現しています。

 特に、管理者にとっては必修の手法です。日頃の仕事をこれで回していく。新製品の開発プロジェクトでもマネジメントの発表会でも「QCストーリー」に沿って説明しなければなりません。逆に言えば、「QCストーリー」を使いこなせなければ管理者にはなれません。

 管理者だけではありません。技術者から事務員まで、新入社員から社長まで、現場からスタッフ部門まで全部門が日常的に共通して使っているツールです。統計的品質管理(SQC)の発表会も技術研究発表会もQCサークルの発表会も、全て「QCストーリー」に従って発表する必要があるのです。