──ねじ締結をきちんとできている技術者の割合は、どれくらいなのでしょうか。

岡本氏:せいぜい20~30%くらいではないでしょうか。ねじに関するトラブルが多いこともあって、最近は社内の資格試験などでねじ締結について学ぶ機会が徐々に増えつつあるようです。しかし、本当に理解しているか、すなわち設計の留意点となる原理・原則まで押さえているかと言えば、残念ながらそうとは言えない状況です。

 大手企業の技術者でも、ねじ締結を表面的に知っている人は多いのですが、原理・原則まで分かっている人は少ないと感じます。例えば、くさび効果で締結力が得られるとか、摩擦と関係しているとか、言葉で理解している人はたくさんいるのですが、もう少し掘り下げて、摩擦のメカニズムまで押さえなければならないといったことまで理解している人は、極めて少ないというのが現実です。

──ねじのトラブルを防ぐには原理・原則までしっかり押さえておく必要がある。それは分かりましたが、逆に、そこまで大切なはずの原理・原則を忘れている企業が多いのはなぜですか。また、岡本先生自身が、開発設計者の時代にねじ締結の原理・原則の大切さに気づくことができたのはどうしてでしょうか。

岡本氏:最近の技術者は、さまざまな技術を広範囲で学ばなければならず、ねじ締結に関して原理・原則まで踏み込んで勉強する時間がなかなかとれないのかもしれませんね。しかし、冒頭で述べた通り、ねじ締結はクルマのリコール原因のざっと1割を占めるほど重要な技術なのですから、設計の留意点としてしっかりと学んでおかなければなりません。

 私がねじ締結について原理・原則まで遡って習得する必要性を感じたのは、実は、デンソーで新製品の開発設計を担当した際にうるさい、いや、ありがたい上司がいたからです。正直に言うと、当時は煩わしいと感じてもいました。何かを報告するたびに、常に「なぜ、こうしたのか?」と問われるからです。いわゆる、「なぜなぜ分析」です。

「ここはトルク法を使いました」
「なぜだ?」
 ここで、「いや、先輩が使っていたので、それでよいと思いました」などと答えようものなら、厳しく叱責されてしまいます。トルク法を選定したら選定したで、

「問題点は何だ?」
「なぜ、それが問題となるのか?」
「ばらつきはないのか?」
「そのばらつきの原因は?」

と、えんえんと「なぜ」が続きます。つまり、原理・原則まで遡らなければ、上司の納得が得られなかったのです。こうした上司の下にいれば、自然と原理・原則まで調べておこうという癖が付いていきます。

 加えて、従来にない新しいタイプの製品開発を私が多く担当していたという点も、原理・原則の大切さを知る背景にはあったと思います。新しいタイプの製品を開発設計しようとすると、トラブルが目立つという特徴があります。新しい領域に踏み込むと、従来の方法を踏襲できないため、原理・原則までしっかり確認しておかないとトラブルに見舞われてしまうというわけです。