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 日本企業の強みであるはずの高品質に陰りが見え始めた。事実、自社の品質の低下を認識する日本の技術者は過半数を超えていると「日経ものづくり」の調査でも明らかになっている。トヨタグループ企業の中でも優秀な技術者が活用している品質手法を学び、高い水準の「品質力」を身に付ける──。こうした狙いから「技術者塾」は連続講座「品質完璧マスターシリーズ」を企画した。講師は、デンソーの設計開発者として業務の中で品質手法を使いこなした経験を持ち、かつトヨタグループの品質力を育成するSQC研究会のグループリーダーも務めた皆川一二氏だ。皆川氏に日本企業の品質水準の現状を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──品質の専門家の立場から見て、ここ最近、日本企業の品質をどう見ていますか?

皆川氏:日本企業の品質は「綱渡り」状態にあると感じています。以前、「日本メーカーの品質は『ある日突然崩壊してもおかしくない』」と表現しました。残念ながらその状況は変わっていません。かつて「QC七つ道具」を知らない管理者がいて驚いたと言いましたが、その後、役員クラスでも知らない人がいるという事実に直面しました。しかも、決して小さな企業ではありません。

 ただ、明るい兆しもあります。品質を高めたり維持したりするために必要な施策に関して「当社は何もできていない」と気付き始めた企業も出てきたことです。まずはできていないという現実に気付いたことは、大きな進歩です。できていないことに気付いて初めて、品質を向上・維持するための施策に「きちんと取り組まなければならない」と考えるようになるからです。

──依然として基本的な品質手法を使っていない日本企業があるのですね。しかし、それでも製品を造れている。ということは、とりあえず問題はないと考えることはできませんか。

皆川氏:そんなことでは早晩、トラブルに見舞われる可能性があります。確かに、顧客から言われた通りの物を造る、いわゆる下請け的な立場を続けるなら、それほど大きな問題に見舞われることはないかもしれません。例えば顧客が自動車メーカーや大手自動車部品メーカーで、図面は与えられる。その上で、言われた通り、指導された通りに造るだけというケースです。品質は申し分なく、売り上げも順調に伸びていくかもしれない。

 しかし、そうした企業が自社ブランド製品やオリジナル製品を造ろうと、自ら図面を描いた場合はどうなるでしょうか。結論を言えば、品質不具合の山を築く可能性がある。寸法も材質も工程の造り方もまずく、次々と不具合が露呈してついにはクレームとなる…。実際、そのような日本企業があるのです。なぜそうなってしまったのか。その企業を調べると驚くべきことが分かりました。実は、品質保証会議、デンソーでいうところの「量産移行可否検討会」を開いていなかったのです。つまり、品質不具合を出さない仕組みを築いていなかったというわけです。

 こうして「うちは全くできていない」と気付き始めた日本企業がある一方で、気になっていることがあります。それは、品質手法を単発、もしくは部分的に学ぶ日本企業が目に付くことです。例えば、「FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)」は学んだけれど、その他の品質手法については関心がない、という企業が多いのが気掛かりです。