「品質は嘘をつかない」

──製造業では最近、品質に関してデータ偽装や不正といった深刻な問題が露呈し、社会問題に発展するケースが目立っています。

皆川氏:納期やコストなど顧客からの要求が厳しい中で、何とか無事に検査や審査を通り抜けたいという心情が働くのでしょう。論理的に解釈できないデータが見つかった。でも、これを考慮すれば納期に間に合わず、顧客の生産ラインを止めてしまうかもしれない。どうしよう? ええい、このデータは例外として無視してしまえ、と。

 しかし、こうした行動は許されるものではありません。もう一度計測し、原因を調べて品質を確保した上で、さらに納期も確保すべきです。簡単ではありませんが、これも品質を確保するための本質的な考えをきちんと理解していれば乗り越えることが可能です。

 私がデンソーにいた頃の話です。ある自動車部品に組み込むブラケットで振動試験を実施しました。品質保証部門が「問題なし」と判断してくれたのですが、試験後のブラケットを詳細に観察したところ、実は小さなクラックがあることを発見しました。そこで、私たち設計者の方で「これはダメだ」と判断し、プレス成形メーカーに行って金型を修正してもらいつつ、納期を間に合わせたことがあります。

 作家である池井戸潤氏の小説「下町ロケット」を原作としたテレビドラマの中で、中小企業の社長を務める主人公が「技術は嘘をつかない」と啖呵(たんか)を切るシーンがありました。これに倣うなら「品質は嘘をつかない」。1個でも変なデータが生じたら、正直に上司に報告すべきです。上司もまた、部下が正直に報告したら褒めるようにしなければなりません。そうでなければ、データ偽装を誘発することになりかねません。

 私たちが燃料ポンプの開発設計に携わっていた時、ベーン(羽根)が回転する摺動部(羽根を受けるケース)の摩耗問題を見つけて顧客であったトヨタ自動車にいち早く報告し、改善したことがあります。「品質機能展開(QFD)」の手法により、どのような機構が良いかを探る中で気付いたのです。このとき、トヨタ自動車からお褒めの言葉をいただきました。