多いトラブルは?

──表面処理でよくあるトラブルを教えてください。

岡本氏:最も多いトラブルは、密着強度が弱くて剥離するトラブルです。例えば、めっきでは、界面でめっきが剥がれるトラブルが目立ちます。単に剥がれるだけではなく、剥がれると狭い隙間が生じ、そこで隙間腐食が起きることがあります。酸素濃淡電池の効果により、腐食が進行するのです。隙間の中は酸素が少なく、隙間の外では酸素が多い。すると、その間に電位差が生じて腐食が加速されます。腐食すると、そこで応力腐食割れが起き、最悪の場合、部品が破損してしまいます。

 応力腐食割れは、ステンレス鋼や銅、アルミニウム合金の配管を使っている部品でよく見られます。自動車に限らず、家庭用エアコンや工作機械、産業機器など、配管を使っている部品は多い。表面にめっきや酸化皮膜を施した部品は、このトラブルに気をつけなければなりません。

 日本メーカーの技術者からの受ける質問で多いのは、錆関係です。実は、錆のメカニズムを知らない人が少なくありません。また、電食のメカニズムを知らない人も目立ちます。分かっているようで、案外よく分かっていないという人は結構いるのではないでしょうか。かくいう私も、若い頃はよく分かっていませんでした。現場で経験を積みながら、表面処理の本質を学んできました。その経験で培ったものを「技術者塾」の講座でお教えしたいと考えています。

 講義では、少なくとも「考え方」だけは押さえて持ち帰っていただきたいと思います。表面処理とは何のために行うのか、そこで最も大切なポイントはどこなのか。これらをしっかりと理解してもらえるように、徹底的に教えます。そのために、基礎(本質)に関して時間をかけて解説します。限られた時間ではありますが、その時間内に必要なことは徹底的に解説し、疑問点については徹底的に質問を受けます。