進化の背景に「限界設計」

──表面処理技術の進化が加速しているようですね。何が起きているのでしょうか。

岡本氏:製品の付加価値を高めるべく性能を一層向上させるために、ギリギリを狙う設計「限界設計」が日本企業の設計者に求められているからです。表面処理は、もともと少ない材料と少ないエネルギーで済ませることを狙った技術。部材を丸ごと処理するよりも、ムダなく処理できるという利点があります。その狙いをもっと追求していくと、本当に必要な箇所だけに必要な表面処理を施すということになります。

 そう考えると、同じ部材の表面でも、部分的に異なる表面処理を施す設計が必要になる時代がすぐにやって来るかもしれません。例えば、同じ部材の表面に数mm程度の幅で種類の異なる表面処理を施すような設計です。

──表面処理を使いこなす上で大切なポイントを教えてください。

岡本氏:表面処理について設計段階でしっかりと決めておくことです。表面処理を施す部材(母材)の材質や、表面処理の種類、そして部品の形状まできちんと把握した上で、設計に織り込むことが大切です。

 設計者は製品の強度に関してはしっかりと設計に織り込みます。ところが、表面処理については軽視する傾向が見られます。「後で処理すればいいや」と安易に考えている設計者が多いのです。しかし、これでは表面処理でつまずき、設計をやり直す羽目に陥る可能性があります。例えば、めっき処理ではエッジ形状の部分でめっきが付きにくい。表面処理の仕方にもよるのですが、基本的に強い密着強度が得られません。当然、これでは狙った機能を実現することは不可能です。

 表面処理は母材に左右されることも知っておかなければなりません。狙った表面処理をどの母材にも施せるわけではなく、母材に対して可能な表面処理と不可能な表面処理があるのです。分かりやすい例は、焼き入れです。鋼に焼き入れすることはできますが、銅に対して焼き入れすることはできません。

 ある母材に対してある機能を持つ材料を表面処理(被膜)しようとしたのに、密着性が悪くてうまくいかなったということがよくあります。この場合、密着性を高めるために中間層を設けたり、母材の表面に凹凸を作って「アンカー効果」を利用したりする方法があります。最近はレーザーを使って形状を工夫した凹凸を作ることで、アンカー効果を高める技術も開発されています。いずれにせよ、母材と表面処理の関係を知っておかなければ、設計通りの性能を満たすことができないのです。