高木徹氏=豊田マネージメント研究所副社長
高木徹氏=豊田マネージメント研究所副社長
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 米国を代表するグローバル企業であるGoogle社。そのマネジメントは、これまでの欧米企業とは一線を画している。従来型のMBA(経営学修士)を基にしたマネジメントに背を向け、日本企業のマネジメントを研究して取り入れているというのだ。その企業とはトヨタ自動車。同社の実践型マネジメントに学び、その方向に舵を切っている。世界の先端を行く企業のマネジメントで何が起きているのか。「技術者塾」において「欧米の一流企業を超える本物の管理力を身に付ける トヨタ流マネジメント講座」(2018年1月18日スタート)の講師の1人である豊田マネージメント研究所副社長の高木徹氏に聞いた。その前編。(聞き手は近岡 裕)

──日本企業のマネジメントの現状をどう見ていますか。

高木氏:多くの日本企業が、欧米型の経営やマネジメント(以下、マネジメント)を導入していたり、欧米型のマネジメント理論に基づいた経営コンサルティング会社の経営指導を受けていたりしています。欧米の大学が教える従来型のMBAや欧米型のコンサルティング企業が伝授するマネジメントの手法が優れていると信じているのでしょう。でも、果たして望ましい成果が得られているでしょうか。

 実は今、欧米の先進的な企業は、「従来型のMBAスタイルのマネジメントはもう古い」と考えています。従来型のMBAのマネジメントに基づいて経営戦略やポートフォリオ、中期事業計画を立てても、世界の変化が速すぎるなどして対応できず、競争力につながっていないためです。いち早くそれに気付いた代表例が、米Alphabet社傘下のGoogle社。Google社の創業者で前最高経営責任者(CEO)のラリー・ページ氏(現Alphabet社CEO)は、従来型のMBAスタイルのマネジメントが既に通用しないことに言及しています。事実、Google社はトヨタ自動車と同じく、人に投資することの重要性を語っています。

 MBAは知識を中心にした経営理論です。「理論は分かった。では、具体的にどうしたらよいのか?」という段階に進むと、これは実践型のマネジメントの世界となり、経営理論は通用しなくなります。現場の人がすばやく変化に気付き、計画を軌道修正する必要があるのです。

 Google社は、相当な経営資源を使って世界の優秀な企業のマネジメントを研究しています。調査する筆頭がトヨタ自動車だったのでしょう。シリコンバレーのベンチャー企業は、リーンスタートアップの考え方を取り入れて成長してきたので、当然、トヨタの考え方や思想が重要なベストプラクティス(最良の策)であることを知っています。しかし、日本ではトヨタ自動車は製造業であり、トヨタ生産方式(TPS)でマネジメントされている会社と見る人が多い。欧米では製造業以外にも、金融・IT・医療・サービスなどのあらゆる分野にLean(TPSをベースにした欧米流の改善プログラム)が浸透してきています。従って、欧米の経営者は、「トヨタ自動車は持続的に高い収益を出せる優れた企業であり、そのマネジメントには何か秘密があるはずだ」と捉える人が多いのです。

 こうした世界の状況変化に気付かずに、多くの日本企業が未だに知識偏重タイプである従来型のMBAスタイルのマネジメントに執着しているというわけです。