トヨタ流マネジメントが「リーン」として世界に

──しかし、対象がトヨタ自動車とはいえ、欧米の先進的企業が日本企業の製造業のマネジメントをベンチマークするというのは、いまいちピンときません。

高木氏:マネジメントの分野にも一種の「欧米コンプレックス」があると感じます。欧米の世界的な企業の経営は日本企業のそれより優れているという刷り込みが日本人にはあるのでしょう。

 しかし、今、トヨタ自動車のTPSを源流とするマネジメントが「Lean(リーン)」として世界に広まっています。トヨタ流マネジメント(TMS)はリーンを包含していると考えてよいでしょう。既にリーン協会(Lean Enterprise Institute)も立ち上がっています。近年はロシアや中国の企業が積極的にリーン(TPS)を取り入れており、日本の生産能力に追いつこうと必死です。注目すべきは、先進国の企業の動き。彼らは生産現場(工場)の改善よりも、むしろ、ホワイトカラーの生産性を高めるために、リーンを導入しているのです。

 ところが、日本企業のトヨタ自動車を見る目はいつまでも変わりません。「トヨタ自動車は特別な会社だ」「TPSというマネジメントがあるが、あれは生産現場向けで、ホワイトカラーの生産性向上には向かないだろう」といったものです。

ところが、海外では製造業はもちろん、医療や金融などいろいろな業界がリーンを導入しようとしています。リーンITサミットも2013年から欧州で開催されており、欧州のIT企業などが活動しています。このサミットでは、世界的な企業が成果を発表したり、リーディングカンパニーが講演したりしています。

 つまり、TPS(従来のTPS)は生産現場向けでホワイトカラーを対象にしていないのですが、リーンはホワイトカラーをも巻き込んで発展しているのです。これは、海外企業がトヨタ自動車を見る際に、生産ではなく、企業経営やマネジメントの観点から入ってくるからでしょう。Google社の関心の持ち方と同じです。

 欧米の経営者やマネージャーは、いかに経営の数字を上げるかを考えてトヨタ自動車を見ています。生産現場は会社の一部でしかなく、経営者やマネージャーが全体を見る視点では、ホワイトカラーの生産性にも当然目が向くというわけです。「クルマの製造工程だけで、あれだけの利益を稼ぎ続けられるとは思えない。自律的な人材育成はもちろん、管理会計、評価制度、マネージャーの役割、横串の方針管理による活動、組織目標の定量化、マトリックス組織による組織横断的活動などが、利益を稼げるマネジメントの源泉なのではないか?」──。これが、海外の企業の経営者やマネージャーがトヨタ自動車を見る目なのです。