欧州でHEVが売れている

──多くの製品と同様に、クルマの開発も市場変化の影響を受けるというわけですね。では、現時点において、注目すべきクローバルの市場変化を教えてください。

加藤氏:実は今、欧州でHEVが売れています。欧州の自動車産業のシナリオは、クリーンディーゼル車でしばらく頑張り、「マイルドHEV」(後述)を一時期だけ展開して、その先に電気自動車(EV)へシフトするというものでした。ところが、そのシナリオが先に説明したVW社の不正問題の発覚をきっかけに崩れてきました。クリーンディーゼル車で排出ガス規制や燃費規制を乗り切るのが難しいのは、VW社だけではなく触媒に頼っている自動車メーカー全体に言えることなのです。

 現在欧州の自動車産業が力を入れているのは、トヨタ自動車やホンダが押す「ストロングHEV」ではなく、48V電源による「マイルドHEV」です。12V電源の電圧を変圧器を使って200V以上に高めるストロングHEVと比べて、マイルドHEVは低コストという利点があります。一方で出力電力が弱く、エンジンを停止させて電力だけで走行する、いわゆるEV走行はできません。そのため、EV走行の可能なストロングHEVに比べて燃費効果は劣ります。

 このストロングHEVの開発では日本の自動車メーカーが先行しています。これに対抗すべく、ドイツの自動車メーカー5社が連携して48V電源の規格を策定し、マイルドHEV用の部品の共通化を進めています。こうすれば、5社に共通仕様の部品が使えるため、さらに低コスト化できます。その低コストを武器に、48V電源のマイルドHEV(以下、48VのマイルドHEV)を欧州に普及させようと考えているのです。

 こうなると、部品メーカーも影響を受けます。ストロングHEV用部品とマイルドHEV用部品との共通化が難しくなるからです。

米国でHEVが苦戦の理由

 近い将来にEVが普及すると言われている中国市場でも、現在欧州車が多いため、48VのマイルドHEVが普及する可能性があります。今後の経済成長が大いに期待されるインドでも、欧州の部品メーカーの売り込みで48VのマイルドHEVが普及する可能性があります。

 ただし、インドの最大の課題は電力不足による停電です。今は石炭による火力発電への依存率が高いのですが、最近は日本をはじめ他国からの原子力発電技術の協力援助が話題になっています。この協力援助が進めば、原子力発電による電力供給のインフラが整備されていくことでしょう。そうなるとパワートレーンの電動化も進んでいくと思います。

 東南アジアは足元では経済が停滞していますが、インドネシアは人口が多くてまだまだ経済成長が期待できます。ベトナムやミャンマーも今は2輪車が中心ですが、今後は確実に4輪車へのモータリゼーションが進んでいきます。ただし、これらの国や地域では従来のガソリン車やディーゼル車が当面は主流であり続けると思います。

 現在、米国は従来と比べてガソリンが大幅に安いため、燃費を気にしなくなっている人が多く、HEVの売り上げが落ちてきています。さらにZEV(Zero Emission Vehicle)規制が2018年以降に大きく変わり、HEVはZEV対象車として認められなくなります。この影響を受けて、HEVは減り、EVやPHEVが増えていくと予想されます。

 自動車業界は各国にとって大変重要な基幹産業です。これまでも自動車の販売動向は政治や経済、燃料動向などの影響を大きく受けてきました。今後も世界の各国で大きな変動が続くと予想されており、パワートレーンのトレンドは地域と年代で大きく変わっていきます。そのため、自動車メーカーと同様に部品メーカーや材料メーカーも常にパワートレーンの動向を注視していく必要があります。その一助として、「技術者塾」の講座をぜひ利用してください。