HCCIエンジンとは?

──もう1つの革新的エンジン、「HCCIエンジン」について教えてください。

加藤氏: HCCIは、エンジンの「究極の燃焼」と呼ばれています。多くのメーカーが開発を進めており、2018~20年ぐらいに量産化されると見られています。

 HCCIエンジンを理解するには、まずディーゼルエンジンの仕組みを理解する必要があります。HCCIエンジンはディーゼルエンジンと同じく燃料を自己着火させる方法だからです。ガソリンエンジンとは異なり、火花点火による着火は使いません。

 ディーゼルエンジンは、燃焼室の温度が高くなると窒素酸化物(NOx)が増える一方、粒子状物質(PM)が減ります。逆に、燃焼室の温度が低くなるとNOxが減り、PMが増えます。つまり、NOxとPMの排出量はトレードオフの関係にあるのです。ところが、今の排出ガス規制はNOxもPMも共に減らすように規制されています。この厳しい規制をクリアするために、現状では触媒に頼っているメーカーが多い。PMを除去するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター、ディーゼル粒子状物質除去装置)とNOx触媒(NOx吸蔵還元型触媒や尿素選択還元装置)です。

 ところが、DPFの中にたまったPMを燃焼してDPFを再生するために、燃焼とは関係なく燃料を噴射する必要があり、その分、燃費が低下します。触媒の耐久性の課題もある。そして、何よりコストが高い。これが、ドイツVolkswagen(VW)社による排出ガス不正問題(2015年に発覚)を招いた要因の1つになったのだと思います。

 こうした問題を解消できるのがHCCIエンジンです。エンジンの熱効率を高めることができ、NOxとPMの両方を同時に低減できるメリットがあります。通常のディーゼルエンジンは、燃焼室の中で自己着火して燃焼が広がっていき、燃焼温度が上昇するためNOxが増加します。逆に、燃焼温度を下げるとNOxは減りますが、PMは増えてしまう。

 これに対し、HCCIでは燃焼室の中に均質な混合気を形成した後で、自己着火させて一気に全域を燃やします。そのため、燃焼温度の上昇を抑えてNOxを減らせるだけではなく、PMの量も抑制できるのです。ディーゼルエンジンもガソリンエンジンも、行き着く先はHCCIエンジンと言われています。

 ただし、難しい課題もあります。HCCIは運転領域が限られていることです。そのため、HCCIの運転領域をどこまで広げられるかについての開発が各社で進められています。