──エンジンでは、熱効率や燃費を高める競争が激しくなっているとのこと。では、エンジン分野で注目すべき技術を教えてください。

加藤氏:現在のエンジン改良の主流は燃費と熱効率の向上であり、大きな技術のトレンドは「エンジンのダウンサイジング化」と「エンジンの高熱効率化」です。

 エンジンは低回転時にトルクが小さく、ある程度の回転数に達したところからトルクが大きくなるという特性があります。しかし、ドライバーにしてみると、信号などの停車状態から加速していく低回転時にも十分なトルクが欲しい。これに応えるために、従来のエンジンは排気量を上げることで低回転時に大きなトルクを得てきました。ところが、排気量を上げるとアイドリング時や、20~30km/時程度の低速走行領域などのエンジン出力をあまり必要としない運転領域で、余分な燃料を消費しています。

 そこで、過給器を利用し、高出力の値を下げずにエンジンの排気量を下げることで、燃費向上を図る。この技術をダウンサイジングと呼びます。例えば、排気量を2.0Lから1.2Lといった具合に大幅に小さくします。これにより、アイドリング時や低速走行時の燃費を引き上げることができる。ただし、このままでは低排気量なので、高出力の必要な加速時に出力が足りなくなります。そこで、ターボチャージャーやスーパーチャージャーといった過給器を組み込んで出力を補います。

 つまり、小排気量のエンジンをベースに使い、熱効率の高いアトキンソンサイクル(後述)のような技術と組み合わせて燃費のムダをなくす。そして、必要な時だけ過給器を使って出力を高めるというダウンサイジング化が、今のエンジン開発の主流なのです。

 過給器は以前も一部のエンジンで使われていました。しかし、ターボラグ(過給の遅れ)というデメリットなどがあり、採用は広がりませんでした。最近の過給器は応答性が向上し、多くの車種に使われるようになりました。

 燃焼サイクルに関しては、ほとんどのエンジンがアトキンソンサイクルを採用しています。この燃焼サイクルは、圧縮行程よりも膨張行程が長い(高膨張比の)ため、熱効率に優れます。加えて、実圧縮比を下げられるので、ノッキング(異常燃焼)などの不具合も出にくくなります。ただし、少し出力が落ちるため、過給器との組み合わせが必要というわけです。

 このダウンサイジングエンジンの他にも、熱効率を向上させる技術はいろいろと開発・採用されています。その中で今、近い将来をにらんだ2つの大きな技術革新が考えられています。1つは「可変圧縮比エンジン」であり、もう1つが「HCCI(均質予混合圧縮着火)エンジン」です。2020年までには量産化される予定です。