体系化された開発設計プロセスとは

──体系化された開発設計プロセスとはどのようなものなのでしょうか。

寺倉氏:開発設計プロセスとは、顧客のニーズを聞くところから図面を次の工程(生産技術や生産部門、外注企業など)に渡すまでの全プロセスのことです。各開発設計プロセスは、生産プロセスで言うところの加工工程や洗浄工程、検査工程といった生産工程に相当します。生産プロセスと同様に、開発設計プロセスでも、行うべき作業を網羅し、全てのプロセスを明確に定義しなければなりません。

 そして、開発設計のプロセスは前半と後半の大きく2つに分かれます。前半が先行開発プロセスで、後半が量産設計プロセスです。開発設計では多くの場合、顧客のニーズに応えるために、新規性の高い技術的な課題が出てきます。これを乗り越えるための活動(プロセス)が、先行開発プロセスとなります。一方、量産設計のプロセスの目標は、品質不具合を出さないこと。製品を100万個造っても不良を1つも出さないための活動(プロセス)が、量産設計プロセスです(図)。両プロセスを合わせて開発設計プロセスと呼ぶのです。

図●量産設計プロセスのイメージ
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図●量産設計プロセスのイメージ
開発設計プロセスの後半を構成する。このプロセスの前には先行開発プロセスが来る。

 開発設計プロセスを持っていると言う日本企業でも、必要なプロセスが欠けていたり、個々のプロセスを明確に定義していなかったりすることは珍しくありません。それどころか、頭の中で考えているものを図面に落とし込むことが開発設計の仕事だと思っている企業がたくさんあります。

 極端な例を挙げましょう。ある企業の設計者が補強用のリブの入った図面を持ってきました。そして、「これでよいでしょうか?」と私に尋ねるのです。よく見るとリブの方向が間違っており、強度アップしていません。そこで、私が「なぜ、この方向にリブを描いたのですか?」と質問すると、「リブが必要と言われたので、とにかく入れました」との返答でした。リブを入れることで強度がどれくらい増すかという計算をしていなかったのです。これでは金型をムダに造って開発設計コストを浪費するだけです。技術的な根拠がなく、図面を描くことなどあり得ません。

──なぜ、そうなってしまうのでしょうか。

寺倉氏:2つの理由が考えられます。1つは、開発設計プロセスがあっても、なぜそのプロセスがあるかという根拠が明確になっていないからです。根拠が分からなければ、適当に処理してしまったり飛ばしたりしてしまう危険性が増します。

 もう1つの理由は、定義されたことや定められたルールを遵守するという意識が低いからです。生産現場であれば作業標準書通りにきちんと造っていきますし、従業員はそれを守るために訓練まで行います。ところが、開発設計現場になると、決められたルールを守ろうとする意識が低くなる。設計者が個人プレーで進めればよいと考え、細かいルールなど決めないという日本企業が多いのです。