ワールドテック代表取締役の寺倉修氏
[画像のクリックで拡大表示]
ワールドテック代表取締役の寺倉修氏


 生産現場では整然とものが造られていくのに、開発設計現場の効率は一向に高まらない──。日本企業の多くが長年こうした課題を抱えてきた。原因は「きちんとした開発設計プロセスを持っていないことにある」と説くのが、デンソーの開発設計者出身のワールドテック代表取締役の寺倉修氏だ。「技術者塾」において「寺倉の「設計力」実践講座 世界No.1製品をつくるための開発設計プロジェクト指南」(2019年1月21日スタート)の講座を持つ同氏に、開発設計プロセスの重要性について聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)の急速な進化もあり、製造業はますます競争が激しくなっています。この時代に世界の競合に勝つために、これまで以上に競争力のある製品づくりが求められています。それを実現するために、日本企業には何が必要だと思いますか。

寺倉氏:「世界No.1製品」を生み出し、生産するための「開発設計プロセス」の構築です。世界一とは、品質(性能)とコストで「ダントツ」を実現すること。製造業では、設計段階の取り組みで品質とコストの8割程度が決まるという現実がある。そのため、しかるべき開発設計プロセスが必要となります。

 ところが、きちんと体系化された開発設計プロセスを構築していない日本企業が多いのです。大半の日本企業は強い生産現場を持っており、優れた生産プロセスを備えています。5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)もムダ取りも「ポカヨケ」などの工夫も実践している。「トヨタ生産方式(TPS)」などは優れた生産プロセスの最たるものでしょう。これらにより継続的な改善を行い、世界的に見ても競争力の高い生産現場を持っている日本企業は結構存在します。

 それなのに、開発設計現場に目を転じると、きちんと整備された開発設計プロセスがない。開発設計プロセスを持っていても、中身を見ると物足りないケースが目に付きます。「開発設計は頑張ればなんとかなる」などと思っている日本企業が多いのではないでしょうか。

 開発設計現場も本来は、仕事の手順を体系化したり、あるべき姿を目指したりしてムダなく効率的に進めていく点は生産現場と変わりません。しかし、担当者が頑張ってなんとかするという漠然としたイメージを持っている日本企業は大手にもあるというのが実態です。

──意外です。体系化された開発設計プロセスを持っていない日本企業が多いのは、なぜでしょうか。

寺倉氏:残念なことに最近は声が小さくなりつつありますが、これまで「日本のものづくりはすごい」と言われてきました。日本企業の「ゲンバ」は優秀だと。しかし、その言葉の意味するところは「生産現場」。生産現場が優れていると評価されてきたのです。製造業で「会社を良くする」と言うと、それは生産現場を改善することを多くの人がイメージしてきました。

 でも、当然ですが、ものづくりのゲンバは生産だけではありません。その上流にある開発設計現場もものを生み出すためのゲンバです。そして、きちんと体系化された生産プロセスがムダなく効率的に製品を造り上げていくことと同じように、ムダなく効率的に製品を創り上げていくためには体系化された開発設計プロセスが必要になるのです。現に、私がかつて開発設計者として働いていたデンソーには、きちんと体系化された開発設計プロセス(ただし、量産設計プロセス:後述)がありました。

 開発設計プロセスには、設計手順や知的環境、議論すべきノウハウ、基準類などさまざまな仕掛けが必要です。これらは生産プロセスの生産ラインに相当するものです。設計現場の5Sやポカヨケ、TPSなどに相当するものを、設計開発現場にも整えなければならないのです。ここが日本企業の弱いところです。

 メディアにも責任はあるのではないでしょうか。ものづくりはゲンバが大切と伝えながら、生産現場ばかりを取り上げてきた。トヨタグループであれば「トヨタの強さはTPSが支えている」といった具合です。しかし、ものづくりにとって、生産と開発設計はクルマの両輪です。世界の競合に打ち勝つには「設計力」も高めなければなりません。そして、その設計力を支えるのが、開発設計プロセスなのです。