競合に勝てない、品質不具合が減らない

──体系化された開発設計プロセスを持っていない場合のデメリットを教えてください。

寺倉氏:先行開発プロセスは、性能とコストにおいて世界で優位に立つ原動力になります。つまり、「世界No.1製品」のポテンシャルを創り上げる活動です。この部分がなければ、当然、世界の競合を凌(しの)ぐ製品を設計することができません。

 一方、量産設計プロセスは、お客様の信頼を得る活動です。体系化した量産設計プロセスを持たずに図面を作成した場合、品質不具合を一向に減らせません。検査作業を削減できず、市場不具合やリコールの件数を抑えることができなくなってしまいます。

 日本企業では「設計開発(プロセス)を良くしよう」と聞くと、その狙いは「品質を高めること」と考える人が多い。しかし、この目的を満たし得るのは量産設計プロセスです。これに対し、先行開発プロセスに対する意識は低く、設計開発プロセスの中でも先行開発プロセスの取り組みを実践している日本企業は極めて少ないというのが現状です。きちんと体系化された先行開発プロセスを持っていないことが、近年、欧米企業に対して魅力的な製品を生み出せてないことにつながっているのだと思います。

──逆に、体系化された設計開発プロセスを持ち、それを基に設計開発プロジェクトを進めていくことで得られる利点を改めて教えてください。

寺倉氏:設計開発におけるムダを省き、効率を高めることができます。余計なことや手戻りを防ぐため、スピードが速まり、品質もコストも目標に近づけやすくなります。プロセスは歯止めです。歯止めがあるからこそ、目標に近づいていくのです。

 逆に、歯止めがなければ目標から乖離し、良い方向には絶対に進みません。図面を出すときになって、コストが目標を超えていたとか、設計開発のリードタイムが長すぎたといった結果になる可能性があります。体系化された開発設計プロセス通りにやっていたら、品質もコストも目標を満たし、リードタイムはずっと短くなる可能性が高いのです。

 ただし、開発設計プロセスの全てのプロセスをこなすには、議論や判断基準、CAD、人などの要素で構成される「設計力」が必要となります。