トヨタ自動車の検図とは

──時間に追われているのはどの企業も同じでは? 例えば、トヨタ自動車の設計者も「時間がない」と言いたいでしょう。トヨタ自動車ではどのように検図を行っているのでしょうか。

中山氏:確かに。でも、トヨタ自動車は検図のための時間を初めから確保しています。それを計算に入れて設計を行っているのです。理由は、図面品質を守る「最後の砦」だと考えているからです。

 部門によって名前は異なるのですが、トヨタ自動車には「検図会」というイベントがあります。そこにリーダーや個々の設計者が参加し、例えば課長クラスの上司に対して設計の意図や考え方をきちんと説明します。この検図会で上司とよく話した上で上司に検図してもらうのです。新機能や複雑な箇所は設計者と上司が一緒になって検図を行うこともあります。

──課長クラスともなれば設計者としても上級者でしょうし、日頃から設計者を管理しているのですから、改めて検図会を開く必要はないのでは?

中山氏:もちろん、設計の意図や考え方の大方針は把握しています。しかし、DRBFMで審査した箇所や、追加した新しい機能の詳細までは、さすがに上司も知らない場合が多い。しかし、そうした箇所が、最も不具合が生じる可能性が高い部分です。だからこそ、検図会を開いて設計者が上司に説明することが必要なのです。

 ある自動車メーカーは、検図者だけで構成する検図の専門部署があると聞きます。最終検図会でその部署の承認を得ないと検図ができないというのです。こうした専門部署にいる検図者の場合、直属の上司ではありませんから、設計の意図や考え方を図面だけで読み取ることは難しい。従って、この企業の検図会では、より詳しい説明を設計者が検図者に行っていることだと思います。

──トヨタ自動車が検図を重視するのはなぜですか?

中山氏:先にも述べた通り、検図が図面品質を守る「最後の砦」だと思っているからです。この点に気付いていることが、トヨタ自動車と他の多くの日本企業との大きな違いかもしれません。

 トヨタ自動車や同グループの設計者と話すと、「検図の時が一番嫌ですよね」と口をそろえます。検図は細かいところまで検証されるし、説明しなければならないからです。一番時間をかけている部分と言っても過言ではありません。しかし、先に問題を洗い出した方がよい。検図で手を抜いてしまうと、後になって大変な思いをする危険性があります。