設計に起因する不具合が増えている

──図面品質が下がったことでトラブルは増えていますか?

中山氏:ハード系製品の製造面での不具合は少ないと思います。これは、日本の製造業が高度経済成長期から継続して製造現場の改善や生産管理システムの改善を行ってきた結果です。そのため、製品の不具合のうち製造に起因するものは1割程度で、残りの9割が設計に起因するものではないかと私はみています。

 事実、最近のリコールの内容は設計に起因する不具合が多い。少し前までサービスキャンペーン程度で済ませていたものを、近頃はリコールとしてより厳しく対応するようになったことから、リコール件数が増えているという面はあります。それにしても、設計起因の不具合が増えており、中でも特にハードとソフトが融合する部分の不具合が増加していると感じます。

──日本企業における検図の現状を教えてください。

中山氏:心配なことに、しっかりとした検図体制をとっていない日本企業が多いというのが実態です。作成した図面を上司の机に置き、上司に見てもらって終わりと思っている設計者が少なくありません。はっきり言って、それでは図面に捺印するだけの作業です。本来の検図は、設計の意図や考え方を上司にきちんと伝えた上で、図面を確認してもらわなければなりません。

 設計の意図や考え方を伝えるには、設計書や「DRBFM(品質不具合を未然に防止するツール)」などが必要です。ということはつまり、設計者はこれらの資料を作成しなければなりません。このうち設計書を作っている企業は少なくないと思います。製品の設計にはたくさんの人が関わるので、設計書によって設計方針のベクトルをそろえておかないと、まともに設計ができないからです。ところが、単に仕様諸元しか書いていないような不十分な設計書を検図者に渡し、それで検図を済ませている企業が目に付きます。こんな設計書では検図には生かせません。

──典型的な間違った図面の例を教えてください。

中山氏:分かりやすい例に、はめあい公差に関する間違った図面があります。はめあいの箇所の一方に、例えば「H9」があったとして、その相方の部品を「h9」としてしまうといった図面です。これでは、公差が最小のときはゼロですから、絶対に干渉します。どう考えても間違った図面なのに、検図を通過しているわけです。これはつまり、検図が機能していないということを表しています。

 検図の認識も図面を作成する認識もまだまだ甘いというのが、多くの日本企業の現状ではないでしょうか。このミスは、恐らく一方の図面は既に設計されていたのに対し、相方の部品の方を新たに設計した。しかし、相手の部品について何も考えずに公差計算をすると「h9」だったので、そのまま図面を描いたということでしょう。基本的な設計ですが、見落としがちなところでもあります。

 しかし、こんな簡単な部分が間違っている図面を見ると、いかに検図を軽視しているかが分かります。こうした図面を目にすると、製品が実現したい機能や性能が発揮できるのか不安になってしまいます。

──つまり、検図がきちんとできている日本企業は少ないということですね。なぜ、そんなことになっているのでしょうか。

中山氏:「時間がないから」と皆さんが言います。だから、上司の机に置いて済ませようとするのでしょう。製品のリードタイムは確実に短くなっているので、時間がないというのは事実だと思います。上司の机に置いていくのは、余計なことを指摘されたくない、やり直したくないという心理が働いているのでしょう。