千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授 安藤昌也氏
千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授 安藤昌也氏
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 「UXデザイン」を本格的に導入し始めた製造業が増えつつある。ユーザー体験「UX(User Experience)」を織り込んだ製品開発の重要性に気付いたからだ。中でも、「現場で開発設計を担う技術者から実践を望む声が多い」と言うのが、千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科教授の安藤昌也氏だ。「技術者塾」で「技術者こそ知っておきたい「UXデザイン」の基礎」(2016年10月5日)の講座を持つ同氏に、日本メーカーを対象にUXデザインの取り組みの現状を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──まず、「UXデザイン」の現状を教えてください。導入する日本企業は増えていますか。

安藤氏:Webサイトや、スマートフォンのアプリケーションソフト(アプリ)を制作する企業では、既にUXデザインは当然のものとなっています。それに対し、製造業ではUXデザインの取り組みがこれまでは少し遅れていました。UXデザインの必要性を理解しつつも、導入に対して関心を持つ人は一部だったと言えます。

 ところが、最近になってUXデザインを本格的に導入しようと考える日本メーカーが増えてきました。事業部などものづくりの拠点にいて、開発設計に携わる技術者全員でUXデザインを学ぼうという動きが見られるのです。UXデザインは具体的にものを作って進めていく手法のため、開発設計を担う技術者にとって実践しやすいという特徴があります。しかし、技術者だけではありません。営業部門の社員まで含めて、事業部を挙げてUXデザインの考え方について共通認識をつくろうという動きが出てきました。

──日本メーカーに何が起きているのでしょうか。

安藤氏:「顧客のためのものづくりに、本気で取り組まなければならない」と危機感を覚える日本企業が増えているのだと思います。特に、製造業はそうした危機感が高いようです。しかし、最初からUXデザインを学びたいと考える企業はそれほど多くはありません。「顧客にとっての価値(顧客体験価値)を高めるにはどうしたらよいか」と悩み、その具体的な実現手段としてUXデザインに着目するケースが目立ちます。実際、自分が担当する業務の中でUXデザインをどのように実践したらよいかを知りたいと考える技術者が増えているのです。

 つまり、日本メーカーにとってUXデザインは今、競争力のある製品やサービスを生み出すために、その考えを学んで活用しようという実践段階に来ていると言えます。「UXデザインとは何だろう?」という段階は過ぎ、必要なので、「どのようにすればUXデザインを活用できるかという段階に入った」と言えます。

 例えば、業務用製品を開発する業界では、「少なくともUXデザインの考え方を取り入れて開発設計を行いたい」「商品企画の段階からUXデザインを取り入れたい」「ワークショップ形式で実践的に学びたい」といった声が聞こえてくるようになりました。自動車業界では、特にソフトウエアの分野でUXデザインの活用が目立ちます。ユーザーから見て高品質のソフトをUXデザインを利用して開発したい、というニーズがあるようです。

 もっと進んだ企業では専門の部署を立ち上げ、ユーザー体験から商品を企画することに本腰を入れるところも出てきました。

 海外メーカーでは、米General Electric社がUXデザインの活用に関して最も進んでいます。同社はユーザー体験を向上させる統括役員であるCXO(Chief Experience Officer=最高エクスペリエンス責任者)というポストを設置し、注目を集めました。2016年5月には、日本でもKDDIがCXO(お客様体験価値改革プロジェクト統括責任者)を設けたと発表しています。