──しかし、以前から日本メーカーは「顧客第一」を掲げてものづくりをしてきたはずです。

安藤氏:確かに、どの企業も「顧客第一主義」を掲げてきたと思います。でも、残念ながら、うまくはいっていないところが少なくありません。というのは、顧客のことを考えているつもりでも、実際には顧客体験価値を見抜くことができていないからです。

 例えば、BtoB(企業間)の業務用製品では、顧客を訪問して意見を聞くといったことはごく普通に行ってきました。しかし、もはやその程度では顧客体験価値の高い製品を造れない状況になっています。競争が激化し、機能面での差異化が難しくなっているのです。

 一方で、顧客が求める価値の水準はどんどん高まっています。業務用製品を造るメーカーは、自社の製品や競合メーカーの製品を見ながら、顧客体験価値を高めるにはどうしたらよいかと考えるのが普通です。しかし、それでは顧客体験価値を捉えきれません。なぜなら、他の製品で顧客はよりリッチな体験をしているからです。

 例えば、スマートフォンが十分に普及した現在では、顧客はスマートフォンの優れた操作性や利便性を既に体験しています。すると、業務用製品に対しても、スマートフォンの体験を基に価値を評価する顧客が増えていきます。このときに、「いや、スマホと比べられては困ります。業務用製品なのですから、操作性は多少劣っても仕方がないでしょう」などと言っても通用しません。

 つまり、競争相手、比較対象が変わってくるです。好例はカーナビ。昔はカーナビメーカーは、自動車に搭載された純正カーナビと競争していました。ところが、少し前からスマートフォンと競争しています。言うまでもなく、スマートフォンでナビゲーションアプリが動くからです。このように、自分が開発している製品のことだけを考えていても、優れた顧客体験価値を満たす製品を生み出すことはできない時代になっているのです。

──それでも、日本メーカーの多くは、社内のどの部門も顧客体験価値を追求するものづくりを展開しようと努めていると思います。それなのになぜ、顧客体験価値を捉えることが難しいのでしょうか。

安藤氏:まず、社内でコミュニケーションが十分にとれていないことが挙げられます。「顧客体験価値」を高めると言いながら、開発設計者は「機能」の話をする一方で、製品企画の社員は「ニーズ」の話をしている。同じ言葉で違うことを言っているというのは珍しくありません。

 では、質問です。あなたは掃除機の顧客体験価値は何だと思いますか?