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なぜ、モジュラーデザインがうまくいかないのか?

VPM技術研究所 代表取締役 所長 佐藤 嘉彦 氏

  • 近岡 裕
  • 2017/09/12 12:51
VPM技術研究所 代表取締役 所長 佐藤 嘉彦 氏
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 複数の製品をまたいだ部品の共通化を進めるモジュラーデザイン(MD)。その導入を本格化する日本企業が増えてきた。部品の種類(部品数)を減らし、コスト削減やリードタイムの短縮を実現するためだ。ところが、うまく実践できずに悩む声が目立つ。「技術者塾」では「これならできるモジュラーデザイン──部品数マネジメントで部品点数・開発工数・期間を削減」〔2017年12月7日(木)〕という講座を開催する。講師は、いすゞ自動車時代にモジュラーデザインを実践し、100万点の部品を7割減らした実績を持つVPM技術研究所代表取締役所長の佐藤嘉彦氏。モジュラーデザインがうまくいかない理由と、自身が実践したシンプルで実践的な方法を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──モジュラーデザインの最近の動きをどう見ていますか。

佐藤氏:モジュラーデザインを本格的に導入しようとする日本企業が増えています。トヨタ自動車が「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の採用車種を増やしたり、ホンダが2020年までにモジュラーデザインを導入すると発表したりといった話題も出てきました。

 自動車メーカーだけではありません。建設機械メーカーや農機メーカー、そして中小企業の加工メーカーなど、幅広い分野の製造業がモジュラーデザインの導入を始めています。増える一方の部品数に対して何らかの手を打たなければ、会社は回らないという危機感を本気で覚えているのでしょう。その一方で、気掛かりな点もあります。

──どのような点でしょうか。

佐藤氏:「モジュラーデザインがうまくいかない」という声が多い点です。「モジュラーデザインの考え方は分かるけれど、具体的にどのように進めたらよいのか分からない」「モジュラーデザインに着手したけれど、成果が出ない」という話をよく聞くのです。本などでモジュラーデザインの考え方を理解しても、実践面で「うまくいっていない」、あるいは「うまくいかない」という悩みを抱えている人が目立ちます。

 実際、私はよく「実践しやすいモジュラーデザインを教えてください」という相談を受けます。いすゞ自動車時代に私はモジュラーデザインを実践し、当時100万点あった部品数(部品の総量)を30万点に絞り込みました。この話を知る人から「一体、どのようにしてモジュラーデザインを実践したのですか」と聞かれるのです。実は、モジュラーデザインを導入した大手企業の中にも、必ずしもうまくいっていないところがあると聞きます。それほど実践面で苦労する日本企業が多いのです。

ユニットモジュールの第1号づくりから開始

──いすゞ自動車でモジュラーデザインをどのように進めていったのですか。

佐藤氏:私が考えたモジュラーデザインは、最適設計を施したベース(基本)モジュールに、レンジ設計を加えるというものです。こうして得られた部品モジュールを組み合わせることで、ユニットモジュール(複数の部品から成る自動車部品や製品のこと)を組み上げるのです。

 とはいえ、考えを伝えるだけで設計者が動いてくれるほど甘くはありません。やはり、論より証拠。私は設計者と一緒にユニットモジュールの第1号を作りました。これを設計部門に提示し、「このように進めないと部品数は減らないぞ」と伝えたのです。

 作ったユニットモジュールは、エンジンオイルの量を測る「オイルレベルゲージ」です。モジュラーデザインに着手する前、このオイルレベルゲージは図番ベースで682種類もありました。オイルレベルゲージはオイルを測れるだけでよいので、ここまで種類をそろえる必要はありません。そこで私は、オイルレベルゲージを[1]グリップと[2]サーベル(長さ)、[3]検知部、の3つに分割。その上で、グリップは丈夫で生産性がよいものを1つだけ設計し、50種類の長さのサーベルと、18種類の長さの検知部を部品モジュールとして用意しました。

 そして、これらの設計を「最適設計」と名付けました。こう名付ければ、設計を変えようとは簡単に言い出せないと考えたからです。ただし、設計変更を絶対に認めないというわけではありません。付加価値の高い新たな設計を排除するためではないからです。もっと良い設計アイデアが生まれたときに、モデルチェンジすればよいという発想でした。これに勝る生産性も含めた最適設計は当時考えられませんでした。

 サーベルと検知部の組み合わせは単純に50×18とはなりません。成立する組み合わせに条件がある上に、車種のラインアップの制約もあるからです。結局、144種類で従来のバリエーションを吸収することができました。こうしてオイルレベルゲージの部品モジュールを完成させ、これがいすゞ自動車の部品モジュールの第1号となりました。

 最適化設計を施した部品モジュールを作り、それらの組み合わせでユニットモジュール化する。そして、それらを組み合わせてモジュラーデザインに発展させる。この考えを具現化して設計者に「ひな形」として提示したからこそ、モジュラーデザインを実践できたのだと考えています。

部品モジュールの最適化設計ができていない

──モジュラーデザインがうまくいかない理由として、考えられるものは何でしょうか。

佐藤氏:ベースモジュールの最適化設計ができていない点が大きいと思います。言い換えると、最適化設計を施した部品モジュールを作れていないのです。

 例を挙げましょう。ここに、世界的に有名なParker社のボールペンがあります。仕事で米国に行った際に私が空港で買ったもので20米ドル程度ですが、金めっきなどを施したもっと高価なものもあります。しかし、価格にかかわらず、同じ替え芯が使えます。同社はボールペンの基本機能を芯と見なし、ここにベースモジュールの最適設計を施しているのです。その上で、黒や青、赤といった色や、インクの線幅にレンジ設計を加えています。替え芯は世界中で供給されています。

 私はこのペンをしばらく使っていませんでしたが、ほら、きちんと描けます。Parker社はここに最適設計を施し、インクを均一に出したり、しばらく放っておいても描けたりといった機能を追求しているのだと思います。そして、ボールペンによらず芯は共通化。「差」を付けるのは、ペン本体の部分です。外観品質や握ったときの感触といった、お客様が価値を認めて積極的にお金を払ってくれる部分は共通化せずに、それぞれのボールペンで新たに設計していくのです。ここは差異化です。

 少しでも良くしたいという設計者の気持ちは分かります。新しくすることが使命であると考えている設計者は多いことでしょう。そのため、設計者は「とにかく図面を新しくしないと製品が陳腐化する」と考える傾向が強いのですが、これが「誤った最適化設計」につながりがちです。新しい設計は、お客様が理解して初めて意味があります。新しくしてもお客様が価値を認めてもらえない所であれば、お金を使う意味がありません。

 例えば、材料費を削減するためにある部品の肉厚を薄くした図面を作成するとします。一見すると、材料を減らせばコスト削減につながり、お客様にも利点があると思うかもしれません。しかし、本当にコスト削減になるでしょうか。金型費の償却に何年費やすつもりでしょうか。サービス部品が増えたことは計算されていますか。設計者の作業時間はきちんと考えているのでしょうか。

 こうした「見えない原価」を考慮したら、機能がほとんど変わらない部品を新たに設計することは間違っていると分かるはずです。お金を掛けるべきは、お客様が価値を認めてくれる部分です。設計者のリソースもそこに費やすべきでしょう。

効果が見えていない

──モジュラーデザインには開発工数やコスト削減、開発リードタイムの削減などいろいろな効果があると言われるだけに、もったいない感じがします。

佐藤氏:いや、実は効果が見えないという点も、モジュラーデザインがうまくいかない原因の1つではないかと私は考えています。

──どういうことでしょうか。

佐藤氏:日本企業の多くは、原価をきちんと計算していません。そのため、モジュラーデザインを取り入れても、金銭的な効果がなかなか見えない。これが、モジュラーデザインがうまくいかないことにつながっていると思うのです。

 いすゞ自動車で実現した、先のオイルレベルゲージは、モジュラーデザイン化したので、新たに設計する必要がありません。[2]サーベル(長さ)と[3]検知部のレンジから必要なものを組み合わせるだけなので、図面を描く工数は不要です。その分、設計費は安くなります。ところが、製品や部品ごとに設計費を計算している企業はほとんどありません。つまり、付加価値の高い仕事とそうではない仕事の原価を区別していないのです。さらに言えば、難易度の高い設計をこなすベテランも、先輩のアシスタントを行っている若手も全て合計して人件費を見積もっている企業が多いと思います。これでは、モジュラーデザインを導入してリードタイム短縮ができても、それを金銭的な効果として見積もることができません。

 ちなみに、いすゞ自動車では製品ごとに設計費を計算しています。例えば、今、手掛けている設計は現行モデルか、それとも次期モデルなのか。0.5時間単位で分けて計算しています。ここまで実践している企業は少ないはずです。

 日本企業の原価計算がなっていないという指摘は、実は世界的な会計学者であるロビン・クーパー氏も指摘しています。あるとき、私がファクスで彼に手紙を送ったことがきっかけで、私たちは友人になりました。クーパー氏の「日本で自動車を中心に研究したいから、相談に乗ってほしい」という申し出を受けたのです。その結果は、「日本企業の会計の感覚は間違っている」というものでした。

 同氏が主張するのは「アクティブベースドコスティング(ABC)」です。端的に言うと、「発生した費用は、それぞれ固定費を案分し、それに匹敵するコスティングをしなさい」ということです。例えば、ある人が1日で3つの仕事、X仕事とY仕事、Z仕事をこなしたとします。日本企業の多くは人件費を対等に3で割り、それぞれの仕事に1/3ずつのコストを割り当てます。しかし、多くの場合、これら3つの仕事に割く人的リソースは対等ではないはずです。例えば、X仕事の難易度や付加価値が高く、そこに7割の人的リソースを掛けたのであれば、X仕事に7割分のコストを割り当てるべきなのです。

 いずれにせよ、原価計算をきちんとせず、ある仕事の価値に見合った金銭的な利点が見えなければ、モジュラーデザインに取り組んでも効果がはっきりと見えず、マイナスに作用する可能性があると思います。

IoT化にも有利に作用

──モジュラーデザインに取り組むとさまざまな制約が生まれます。それに抵抗を感じる設計者は少なくないのではないでしょうか。

佐藤氏:私がある企業にモジュラーデザインを指導した際に、部品数に上限を設けました。設計者が自由に設計すると部品数が増えてしまいます。そこで、部品数を抑える部品数マネジメントがモジュラーデザインを進める際に必要なのです。

 その企業のある設計者がこう言いました。「最初は部品数の制約を守るために、設計に時間がかかって大変でした。好きなように図面を描く方が楽でした。でも、制約を課されると工夫するようになります。しばらくして部品モジュールのデータベースができると、好きなように図面を描くよりもずっと楽だと気付きました。データベースから選ぶだけで図面を描く必要がないからです」と。

 部品数に制限を設けて図面作成に制約を設けるとモジュラーデザインが進み、会社が変わってきます。この「部品数マネジメント」がモジュラーデザインの核となるからです。たとえ導入当初は大変だと感じても、長い目で見たときにどちらの方がメリットが大きいか。モジュラーデザインを導入する際には、こうした中・長期の視点も必要になります。

 中・長期的な視点と言えば、モジュラーデザインはIoT(Internet of Things)化を進める際にも有利に働くはずです。

──モジュラーデザインがIoTと相性が良いと?

佐藤氏:その通りです。部品モジュールのデータベースを作ることができれば、製品であるユニットモジュールを生み出すための部品モジュールの組み合わせはIoTの力でできるようになるからです。部品モジュールの最適な組み合わせは人工知能(AI)を使う。私はモジュラーデザインを進めた企業が最も早く設計を含めたIoT化を整えていくと考えています。逆に、部品モジュールのデータベースを持っていなければ、設計のIoT化は難しいのではないでしょうか。

 ただし、データベースを構築する際には人の経験を織り込むことが大切です。かつて、いすゞ自動車にはエンジン設計の「匠」がいました。エンジン設計に携わった人であれば、他社でも名前を知っているほどの有名な人。この人がいないと解決できない問題は多々ありました。どれくらいすごいかというと、エンジンのシリンダーヘッドを触っただけで、「止めろ。ジャーナルの5番ボルトが緩んでいる」と言う。そして、エンジンを分解して確かめるとその通りだった、という具合です。音を聞き、エンジンを触って振動の原因が分かる。こうした匠の経験を織り込んでIoT化しないと、IoT化は絵に描いた餅になると思います。

──最後に「技術者塾」の講座の特徴を教えてください。

佐藤氏:本講座の最大の特徴は「実績」です。私は、いすゞ自動車で当時100万点あった部品数(部品の総量)を30万点に絞り込むことに成功しました。しかも、以降10年以上(確認をした時点)の間、30万点の部品数を維持する仕組みを実現しました。私の講座では理想論は語りません。全て体験から得た成功に導く具体的なノウハウを語ります。

 モジュラーデザインで実績を出している企業はまだ少ないと思います。そういう意味では、私は部品数マネジメントを成功させた数少ないエンジニアだと自負しています。マネジメントの原則に新しいも古いもありません。部品数マネジメントの本質は時代に左右されません。現在、世界の大手自動車メーカーがモジュラーデザインを進めていますが、私の講座はそれを実行する上での基本になるはずです。

 講座では、部品数マネジメントとモジュラーデザインに成功した最新の事例も紹介します。最後にディスカッションの時間も設けます。みなさんの疑問や悩みに対するカウンセリングを行いたいと思います。私が困るようなテーマをぜひ持ってきてください。

 部品数を抑えてモジュラーデザインを成功に導きたいマネジメント層はもちろん、設計開発に携わる技術者や、調達部門の社員の方にぜひ、受講してほしいと思います。