部品モジュールの最適化設計ができていない

──モジュラーデザインがうまくいかない理由として、考えられるものは何でしょうか。

佐藤氏:ベースモジュールの最適化設計ができていない点が大きいと思います。言い換えると、最適化設計を施した部品モジュールを作れていないのです。

 例を挙げましょう。ここに、世界的に有名なParker社のボールペンがあります。仕事で米国に行った際に私が空港で買ったもので20米ドル程度ですが、金めっきなどを施したもっと高価なものもあります。しかし、価格にかかわらず、同じ替え芯が使えます。同社はボールペンの基本機能を芯と見なし、ここにベースモジュールの最適設計を施しているのです。その上で、黒や青、赤といった色や、インクの線幅にレンジ設計を加えています。替え芯は世界中で供給されています。

 私はこのペンをしばらく使っていませんでしたが、ほら、きちんと描けます。Parker社はここに最適設計を施し、インクを均一に出したり、しばらく放っておいても描けたりといった機能を追求しているのだと思います。そして、ボールペンによらず芯は共通化。「差」を付けるのは、ペン本体の部分です。外観品質や握ったときの感触といった、お客様が価値を認めて積極的にお金を払ってくれる部分は共通化せずに、それぞれのボールペンで新たに設計していくのです。ここは差異化です。

 少しでも良くしたいという設計者の気持ちは分かります。新しくすることが使命であると考えている設計者は多いことでしょう。そのため、設計者は「とにかく図面を新しくしないと製品が陳腐化する」と考える傾向が強いのですが、これが「誤った最適化設計」につながりがちです。新しい設計は、お客様が理解して初めて意味があります。新しくしてもお客様が価値を認めてもらえない所であれば、お金を使う意味がありません。

 例えば、材料費を削減するためにある部品の肉厚を薄くした図面を作成するとします。一見すると、材料を減らせばコスト削減につながり、お客様にも利点があると思うかもしれません。しかし、本当にコスト削減になるでしょうか。金型費の償却に何年費やすつもりでしょうか。サービス部品が増えたことは計算されていますか。設計者の作業時間はきちんと考えているのでしょうか。

 こうした「見えない原価」を考慮したら、機能がほとんど変わらない部品を新たに設計することは間違っていると分かるはずです。お金を掛けるべきは、お客様が価値を認めてくれる部分です。設計者のリソースもそこに費やすべきでしょう。