効果が見えていない

──モジュラーデザインには開発工数やコスト削減、開発リードタイムの削減などいろいろな効果があると言われるだけに、もったいない感じがします。

佐藤氏:いや、実は効果が見えないという点も、モジュラーデザインがうまくいかない原因の1つではないかと私は考えています。

──どういうことでしょうか。

佐藤氏:日本企業の多くは、原価をきちんと計算していません。そのため、モジュラーデザインを取り入れても、金銭的な効果がなかなか見えない。これが、モジュラーデザインがうまくいかないことにつながっていると思うのです。

 いすゞ自動車で実現した、先のオイルレベルゲージは、モジュラーデザイン化したので、新たに設計する必要がありません。[2]サーベル(長さ)と[3]検知部のレンジから必要なものを組み合わせるだけなので、図面を描く工数は不要です。その分、設計費は安くなります。ところが、製品や部品ごとに設計費を計算している企業はほとんどありません。つまり、付加価値の高い仕事とそうではない仕事の原価を区別していないのです。さらに言えば、難易度の高い設計をこなすベテランも、先輩のアシスタントを行っている若手も全て合計して人件費を見積もっている企業が多いと思います。これでは、モジュラーデザインを導入してリードタイム短縮ができても、それを金銭的な効果として見積もることができません。

 ちなみに、いすゞ自動車では製品ごとに設計費を計算しています。例えば、今、手掛けている設計は現行モデルか、それとも次期モデルなのか。0.5時間単位で分けて計算しています。ここまで実践している企業は少ないはずです。

 日本企業の原価計算がなっていないという指摘は、実は世界的な会計学者であるロビン・クーパー氏も指摘しています。あるとき、私がファクスで彼に手紙を送ったことがきっかけで、私たちは友人になりました。クーパー氏の「日本で自動車を中心に研究したいから、相談に乗ってほしい」という申し出を受けたのです。その結果は、「日本企業の会計の感覚は間違っている」というものでした。

 同氏が主張するのは「アクティブベースドコスティング(ABC)」です。端的に言うと、「発生した費用は、それぞれ固定費を案分し、それに匹敵するコスティングをしなさい」ということです。例えば、ある人が1日で3つの仕事、X仕事とY仕事、Z仕事をこなしたとします。日本企業の多くは人件費を対等に3で割り、それぞれの仕事に1/3ずつのコストを割り当てます。しかし、多くの場合、これら3つの仕事に割く人的リソースは対等ではないはずです。例えば、X仕事の難易度や付加価値が高く、そこに7割の人的リソースを掛けたのであれば、X仕事に7割分のコストを割り当てるべきなのです。

 いずれにせよ、原価計算をきちんとせず、ある仕事の価値に見合った金銭的な利点が見えなければ、モジュラーデザインに取り組んでも効果がはっきりと見えず、マイナスに作用する可能性があると思います。