「データをどうしよう?」

──ということは、IoTを生かしたビジネスモデルの構築まで進めている日本企業は少なそうですね。

高安氏:IoT化を進めている企業でも、いろいろなものをつないでデータを取り始めたところがほとんど。「データを取った。さて、どうしよう?」と考えている企業が多いというのが現状です。恐らく、各部門がそれぞれの担当範囲でデータを有効活用できることでしょう。しかし、分業体制のままでは部門ごとの部分最適となり、現場改善の延長にとどまってしまう可能性があります。これでは、「第4次産業革命」と言われる、IoT化にはつながらないと思います。

 繰り返しますが、IoT化で重要なのは、縦割りで壁がある分業化スタイルではなく、全体が有機的につながるスタイルです。これにより、個々の部門だけではなく全体を最適化し、新たなビジネスモデルを構築しなければなりません。

──どのような組織が望ましいのでしょうか。

高安氏:例えば、米国の経営学者であるマイケル・ポーター氏は、トップに「最高デジタル経営者(CDO)」を据え、その下に「データ価値向上部門」と「開発運用部門」、「顧客成功管理部門」といった新しい部門の組織化を行うことを提唱しています。

 CDOは、社内のIT化を担っていた従来の最高情報責任者(CIO)とは異なります。データを有効活用してビジネスにつなげ、顧客価値を高める方向に進めるデジタライゼーションを担う経営上の責任者です。

 開発運用部門は、IoTプラットフォームの導入を始め、全社のIoT推進のための支援やデータ収集を実施する部門。データ価値向上部門は、収集したデータを全ての部門で有効利用するために分析などを実施する部門。そして、顧客成功管理部門は、顧客価値を高めるために何をすればよいかを考えて、新規ビジネスモデルを創造する部門です。

 マイケル・ポーター氏が提唱するこの組織と比較すると、現行の多くの日本企業には「IoTに基づいて新たなビジネスモデルを考える責任を担う部署がない」ことに気付くと思います。

 ただ、こうした大掛かりな組織変更をせずに現行の組織のままでも、IoTの時代は個々の社員ができることはいろいろあります。IoT化でさまざまなデータを収集できるため、自分が担当する範囲はもちろん、全体最適に貢献し得る提案を行うチャンスが生まれるからです。従って、これからはIoT推進担当者はもちろん、個々の社員までIoTを踏まえたビジネス感覚(ビジネスモデルの素養)を身に付けておかないと通用しない可能性があります。

 特に心配なのは、系列企業などで親会社の言う通りに動いている企業です。こうした企業は経営層を含めて全体的にビジネス感覚が弱く、いわゆる“下請け体質”から脱していません。上から言われたことだけをやっているだけでは、IoTの時代はとても生き残れないでしょう。