分業体制の副作用

──どのような理由が考えられますか。

高安氏:その大きな理由の1つとして考えられるのが、製造業の分業体制です。IoT化は、分業化されたそれぞれの専門分野だけで進めようとしてもうまくいきません。さまざまなデータを見て、企業全体としてどう動くかを決めなければならないからです。そのため、幅広くいろいろなことを知っている必要があります。端的に言えば、生産技術や生産管理系の人材がIT全般を、IT系の人材が生産を知らないと、IoTを活用した「スマート工場」や「スマート製造業」に企業を変身させることができないのです。従って、各企業は本当の意味で理想的なIoT化に向かっていないのではないか、部分最適にとどまっているのではないか、と注意する必要があります。

 ITリテラシー(活用力)が比較的低い企業の中には、生産システムや設備メーカーの言う通りにIoTシステムを導入するところがあります。この場合、当然ながら相手は自社の設備とIoTシステムが良いとしか言いません。すると、自社に相応しいIoTシステムの全体像を描きづらいという点があるので、注意する必要があります。

 ただし、IoT化を支える人材に必要なのは、決して技術的なスキルだけではありません。それに匹敵する、いや、それ以上に重要なものがあります。

──それは何でしょうか。

高安氏:「ビジネスモデルの構築力」です。営利を追求する企業としてはIoTに投資するからには、それに相応しいリターンを得なければなりません。つまり、売り上げや利益を従来以上に高めなければならない。そのために、IoTをベースに新たなビジネスモデルを構築する必要があるのです。

 これまでは、経営者や経営企画部門など一部の人や限られた部門だけで新規事業やビジネスモデルを考えてきた企業が多いと思います。しかし、この方法はIoTの時代には通用しづらくなります。IoTの時代は、全ての社員が、顧客の情報や市場の情報、工場の情報、部品・材料メーカーの情報などいろいろな情報を見て、全体最適を考えながら判断して、現場主導で新たなサービスや事業といったビジネスモデルを提案していくことが大切です。例えば、市場での「本当の使われ方」が分かれば、それに適した検査の仕方や造り方、保守のやり方を改善するだけではなく、そこから考えられる新たなサービスを提案していくのです。

 全体最適の視点でビジネスモデルを構築する必要があることから、やはり、IoTの利点を最大限に生かすには分業化は足かせとなります。分業体制の下では各部門に定められた要件があり、その通りに役割を果たしていきます。これでは決められたことしかできないので、付加価値の向上を生むビジネスモデルの考案にはつながりにくいのです。