東京大学 情報理工学系研究科 准教授、名古屋大学 未来社会創造機構 客員准教授、ティアフォー 取締役兼CTO 加藤 真平 氏
東京大学 情報理工学系研究科 准教授、名古屋大学 未来社会創造機構 客員准教授、ティアフォー 取締役兼CTO 加藤 真平 氏
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 自動運転技術の開発が世界で過熱している。中でも注目すべきは、人間が運転に全く関わらない「完全自動運転」の技術開発だ。これは、米国運輸省道路交通安全局 (NHTSA)が定める6段階の自動運転レベルのうち、「レベル4」に相当するものである。完全自動運転が世界の製造業にどのような変化をもたらすのか。「技術者塾」で「レベル4を目指す 完全自動運転 最先端ラボ」(2017年8月24日からスタート)の講座を持つ、東京大学 情報理工学系研究科 准教授、名古屋大学 未来社会創造機構 客員准教授、ティアフォー 取締役兼CTOの加藤 真平氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──自動運転レベルの「レベル4」について分かりやすく教えてください。

加藤氏:人間が全く運転に関与しない自動運転です。レベル3では、クルマにとって不得意な部分があれば人間に運転を戻します。何かあったときには人間が責任を持つと定義されているからです。これに対し、レベル4は何が起きたとしても、クルマが頑張る。例えば緊急停止したり、リモートで司令官に運転を切り替えたりします。とにかく、中に乗っている人には運転の負荷を一切かけないというのがレベル4です。

 最近は、レベル4のさらに上のレベル5という概念がよく話題に上ります。レベル4は限定された領域向けです。例えば、高速道路や「ラストワンマイル」(最寄りの駅から家までの最後の1マイル=約1.6km、歩いて20分程度)などの限られた領域に適用します。

 一方で、レベル5は領域に関して制約がありません。領域を無制限にし、どこでも自動運転で走れるというものです。法律の判断となりますが、いわゆる「無人運転」もレベル5に相当します。とにかく、人間が一切運転に関与しないのがレベル4とレベル5です。

──自動車メーカーが2020年に実用化を目指すレベル3には、2つの方法があると伺いました。[1]レベル2の延長線上の方法と、[2]システムを刷新する方法(レベル4を実現する方法)です。これらの間に、どのような技術的な差があるのでしょうか。

加藤氏:レベル2で何を行っているかというと、基本的に車線(白線など)を見ています。そのためにカメラ、あるいは部分的にミリ波レーダーを使います。例えば、Tesla Motors社はカメラとミリ波レーダーを主要なセンサーとして使っています。これにより、周囲のクルマも見ているのです。

 レベル2ではこうして白線を認識し、基本的には真ん中を走行する。そして、カメラで対向車や先行車も認識しているため、何かあれば停止する。これがレベル2の基本です。白線が存在する所であれば、前にクルマがいても基本的に止まれる。この延長線上で作っても、きちんとメンテナンスされている高速道路であればレベル3を実現することができます。

 ところが、レベル2には限界があります。最も分かりやすいのは、白線を必要とするということです。白線がない場所での走行は難しい。加えて、カメラやミリ波レーダーでは正確な距離測定ができないので、市街地のような環境で他の車両と安全な距離を保つことが難しいです。

 これに対し、レベル4はLiDAR(Light Detection and Ranging)や高精度の3次元地図(以下、高精度地図)といった新しいアイテムを使います。これらを使うと、たとえ白線がない場所や見えない状況でも、電信柱や建物、ペイント(道路標示)、道路の形などを使って自車の位置を特定(自己位置推定)できるようになります。すると、走行できる領域の制限が小さくなり、街中のような場所でも自動運転が可能になるのです。