大切なのは「心から湧き出る気持ち」

──3M社は、なぜ不文律にこだわるのですか。15%カルチャーが有益なのであれば、明文化すればよいと思います。全社員がそれぞれ好きな研究に取り組めば、成果も増えるのでは?

新村氏:不文律にこだわり、それを語り継いでいる点が3M社のユニークな点です。これを明文化すれば、規則になってしまう。規則とせずに不文律にこだわっているのは、結局、優れたアイデアを得る確率が高まるからです。

 良いアイデアは、往々にして自主的に取り組んでいる時に湧いてくるものです。アイデアのない社員に強制的に「考えよ」と言っても、社員としては精神的に辛い上に、あまり良いアイデアは浮かんでこないものです。これに対し、不文律であれば、内発的な動機付けができます。自分の心から湧き出た「この研究に取り組みたい」という気持ちを大切にする。有能な人であるほど、そうした気持ちが強いものです。すると、その気持ちが力強いドライビングフォース(推進力)となり、優れたアイデアが生まれる。そして、そのアイデアを育てていくことでイノベーションへとつながっていく。3M社はそう考えているのです。

 こうした自主的に取り組む研究に対し、誰かが「NO」と言って止めると、実に恐ろしいことになります。誰かがケチをつければ、「取り組むのはやめよう」とみんなが考えるようになり、自主的な研究は消えてしまう。自ら手を挙げて研究に取り掛かっておいて、失敗したらどうしようと消極的になる。すると、優れたアイデアの創出は難しくなります。行き着く先は、結局、大企業病でしょう。いずれにせよ、持続的成長など望むべくもありません。