「15%カルチャー」が誕生した理由

──しかし、勝手に設備を使うことを上司が許さない場合もあるはずです。

新村氏:いいえ。上司の命令に背いても問題はありません。上司の指示や命令に関係なく、自分が信じる研究のために設備を使うことを会社が許容しているのです。

──そんなことを許せば、管理者である上司は困るのではありませんか? 本業にも悪影響が出る可能性があると思います。

新村氏:その心配が無用だからこそ、ポスト・イットのように世間から「イノベーション」と呼んでもらえる製品が生まれているわけです。なぜ、3M社で15%カルチャーが生まれたのか。それは「大企業病」に陥ることを回避するためです。

 1948年当時、ウィリアム・マックナイト会長は3M社の規模が大きくなり、大企業病にかかりつつあることを感じていました。この状況に対し、マックナイト会長は「3M社の良さは自主性である」と考え、自分が取り組みたいこと、またそれに取り組むことで自分が成長すると思えることを業務とは別に行うことを推進したのです。このときにマックナイト会長は15%カルチャーを宣言しました。

 もちろん、会社の業務には真剣に取り組んでほしい。でも、15%分の時間は自主的に研究しても構わないし、自主的に研究に励む社員が1人でも増えて欲しいというのが、15%カルチャーの狙いです。決して自主的に研究を行うことを強いるものではありません。また、研究に取り組んでいる人に対し、上司が不満を述べたり叱責したりすることは許されません。いわゆるホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)も不要です。

──15%カルチャーを支えるには、上司にそれ相応の対応力が必要ですね。

新村氏:3M社の上司としての心構えは、部下の気持ちを尊重することです。しかも、失敗を責めてはならない。「上司は血が出るまで唇をかみしめよ」と私は教えられました。他にも、多くの部下を抱えていながら成果が出ないと焦る上司がいたら、その人に「あなたの立場は部下でもっている。そのことを認識しなさい」と諭されます。