モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
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 2016年6月3日、国土交通省が走行抵抗値不正の問題でスズキに立ち入り検査に入った。設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者であるモノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの技術者として排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏は、同社の技術的な説明に不可解な点があることから「スズキに立ち入り検査を実施すべし」と声を上げた。その後の同社の説明から見える技術的/経営的な問題点を同氏が指摘する。

 国土交通省が2016年6月3日に、走行抵抗値の不正問題に関してスズキに立ち入り検査を実施することになりました。

 スズキは第1回の会見で、「試験室内で測定した自動車空気抵抗値と自動車構成部品単体の抵抗値を積み上げることによって、路上での惰行法測定による走行抵抗値の代わりになり得る」と説明しました(以下、「積み上げ法」と呼ぶ)。その結果、マスコミの間で「それならスズキは、測定値がばらつく惰行法よりも良い方法を採用したといえるじゃないか」とスズキを弁護するような意見が一気に広がりました。しかし私は以前の投稿で、理論的・技術的に積み上げ法は惰行法の代わりにはなり得ないことを指摘し、「スズキの『嘘の上塗り』になりかねない言い訳が怖い」と言いました(不可解な技術的説明、スズキに立ち入り検査を実施すべし)。

 そしてスズキはその後の会見で次のように言葉を変遷させました。「あるモデルの複数類型を同時に型式認定申請する際に、そのうちの1つの代表車で惰行法による走行抵抗を測定した。他の類型車種については、自動車を構成する部品単体の抵抗値で代表車の惰行法による走行抵抗値を補正したデータを提出することによって、惰行法テストを省略した」。

 これはつまり、スズキは最初から「積み上げ法は惰行法の代わりにはなり得ない」ことを知っていたということです。スズキはマスコミすらだます悪質な方便を用いたのです。

 さらに、自分たちの正当性を補完するために「欧州では、代表車の惰行法データを部品単体抵抗値で補正するこの方法が認められている」と説明しました。確かにこの「欧州法」ならば、代表車の惰行法を基にある程度の精度で補正できるでしょう。だからスズキが言うように、「社員に燃費不正の意図はなかった」というのはその通りだろうし、「全ての車種の燃費について、惰行法と欧州法の間に大差はなかった」という報告結果はうなずけます(スズキは「全ての車種の走行抵抗値設定を欧州法から正規の惰行法に切り替えたところカタログ燃費は良くなった」と報告したがこの期に及んでえげつない。それ自体が、厳密には欧州法が惰行法の代わりにはなり得ないことを語っている)。

 では、スズキは「燃費不正」以外の何が目的で今回の不正を働いたのでしょうか。