モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
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 設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者であるモノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの技術者として排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏は「カタログ燃費と実燃費の乖離問題」について解消法を提案している。だが、それは果たして実現可能性があるのか。いろいろな疑問について同氏に回答してもらった。

 カタログ燃費と実燃費の乖離問題に関して、私は次の提案をしました(カタログ燃費と実燃費の乖離問題に絶対効果的な解消法を提言)。「自動車メーカーはカタログ燃費と実燃費を公表する。そして、公表実燃費を下回る実燃費になったときはその差額を消費者に補償するという法律を作る」──というものです。ところが、この提案に対して実行性と実効性に疑いの念を抱く方もいるようです。

 第1の疑問は、「なぜ台上試験で実燃費を再現するモードを開発することが難しいのか?」というものです。それは、自動車は使用者の運転特性や速度条件といった運転条件の他にも、-30℃~+50℃という温度条件や、-500m~+3000mの標高条件、雨/あられ/雪などの気象条件、登降坂の勾配状態、カーブの曲率具合、路面の荒れ具合など全てが掛け算で関係してくるからです。全天候型の試験室さえ世の中にないのに、これらの全ての条件をいっぺんに再現する試験室は存在しないからです。

 そのため、自動車メーカーはそれらを1つひとつ再現する試験室や、社内テストコース、現地テストコースなどを個別に持ち、個別に全てを試験します。そして、こうして得た運転条件データと燃料消費データを全部記録してビッグデータとして持っています。従って、自動車メーカーは運転条件の発生頻度から実燃費を統計的に計算することができるのです(ベテラン者であれば、それらのデータを「グッ」と眺めただけでもかなりの精度で推測できます)。

 第2の疑問は、「なぜ、客観的な判定を行う国土交通省などの第三者機関に実燃費決定をさせないのか?」というものです(現在の国交省が客観的な判定をするかについては、少し疑わしいと思いますが)。

 この疑問については、上の第1の疑問への回答を読めば、それが不可能だということが分かるでしょう。米国環境保護庁(EPA)は「オフモード」と称し、外気温25±5℃の試験室で、先の状態を想定した上でむちゃくちゃな試験条件を設定して、無理やり再現しています。しかし、何のデータも持たないEPAは自動車メーカーから「それが実燃費であることをロジカルに説明してくれ」と言われて立ち往生している、という話は前回しました。

 仮に、自動車メーカーにビッグデータを開示させる法律を作っても、一般の人や一般の組織の中に、自動車がどのような使われ方をするかについて隅から隅まで知っている人はほとんどいません。従って、そのデータを処理できる人もいません。それができる人は自動車メーカー以外にはいないので、相変わらず自動車メーカーから「それが実燃費であることをロジカルに説明してくれ」と言われ続けます。