では、どのようにして実燃費を路上や台上で再現すべきか? 結論を言えば、それは不可能です。

 何とかそれらしいモードを開発したとしても、自動車メーカーからEPAが言われたように、「なぜそのモードが実燃費と言えるのか? ロジカルに説明してくれ」と言われたら立ち往生するしかありません。実燃費は、走行条件や運転条件、気象条件などのさまざまな条件が異なる状態での燃費という、膨大なデータを統計的に処理してはじめて出てくるものですが、そうしたデータは誰も持っていないからです。いや、実は唯一、自動車メーカーがその膨大なデータを持っています。そこで、私は次の提案をします。

「自動車メーカーはカタログ燃費と実燃費を公表する。そして、公表実燃費を下回る実燃費になったときはその差額を消費者に補償する、という法律を作る」──

 しかも、これはディフィートデバイス防止基準が有効に働いていることが前提です。ほとんどのディフィートデバイスの目的は、「エンジンシステムの保護」というよりも「規定走行モードを外れたときの実燃費の改善」と考えられます。そのため、ディフィートデバイス防止基準が有効に働いていないと、「不正の上に成り立つ実燃費」になってしまいます。審査機関が各社の市場のクルマをランダムに抜き取ってディフィートデバイス装着の有無を調査することは必須条件です。

 カタログ燃費は当然、排出ガス測定モードで走行した時の燃費であり、審査機関公認の値です*2。実燃費は、いろいろな走行条件で走行した時の燃費を自動車メーカーが推定して公表する燃費です。自動車メーカーは世に新型車を送り出すまでに、数百台の試作車/試作エンジンで一般的な走行状態やエンジン冷却状態からの始動走行、高速走行、悪路、降雪地、冷間地、高温地、高地などの状態を社内で再現しながら、数百万km/数十万時間運転します。それらの走行条件/運転条件と燃料消費量のビッグデータを全部記録しているので、それらを地域特徴別/頻度別に加重平均したら「真の実燃費」が出てきます。しかも自動車メーカーに新たな負担は生じません(新型車のデータの一部を「エイヤッ」と眺めただけでも実燃費はほぼ分かります)。

*2 燃費は運転中の燃料の消費量そのものを測定するのではなく、排出ガス試験中に測定した排出ガス中の二酸化炭素や一酸化炭素、炭化水素の炭素の合計を走行距離で割って求めるため、排出ガス測定と燃費測定は同時にできます。
 
 自動車メーカーがそうして割り出した実燃費値を正しく公表するかどうかについては、気にする必要はありません。自動車メーカーに任せておけばよいのです。放っておいても「落ち着くところに落ち着く」ようになります。

 自動車メーカーがカタログ燃費に対する実燃費の差を小さく公表したら、後で消費者から差分の燃料代を請求されることになります。カタログ燃費に対する実燃費の差を大きく公表したら、消費者の購買意欲をそぐことになります。結局、自動車メーカーはジレンマの末に、正しい実燃費値を公表するしかなくなるでしょう。こうすれば、自動車メーカーは、三菱自動車やスズキによる走行抵抗値の不正申請のような「上げ膳体制下におけるカタログ燃費の改善」に血道をあげるのではなく、実燃費の改善に力を注ぐようになります。それが自動車メーカーの正常な姿でしょう。