モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
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 設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者であるモノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの技術者として排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏が、カタログ燃費と実燃費の乖離に切り込み、その解消法を提言する。

 前回私が提言したディフィートデバイス防止基準(「ディフィートデバイス防止基準」を国交省に提言)により、排出ガスに関する不正はほとんど防止できるでしょう*1。ディフィートデバイスの目的は「エンジンシステムの保護」というよりも、「規定走行モードを外れたときの実燃費の改善」と考えられます。

 そこで、残る問題である「実燃費はカタログ燃費の50 ~70%程度に過ぎない」という問題についても、解消法を提言したいと思います。

*1 先に言い忘れましたが、ディフィートデバイス防止基準による検査は認証受験車だけではなく、市場を走っている各社のクルマの抜き取り検査が前提です。しかも、自動車メーカーの「上げ膳」体制ではなく、審査機関が「独立的」に行う必要があります。

 全国の自動車オーナーから実燃費データを収集してオープンにしているサイト(「e燃費」)を見ると、確かに実燃費はカタログ燃費の50~70%程度となっていることが分かります。

 日本は地下資源に乏しいこともあり、互いに助け合って経済が成り立つ環境であるため、「和を貴ぶ」「人との争いを好まない」「自分さえ我慢すれば周囲とうまくいく」といった「平和主義」の精神が強い傾向があると思います。しかし、実燃費とカタログ燃費の違いについては、平和主義を通り越して「しらけ主義」に陥っています。

 大陸でつながっている外国の人は民族間紛争の歴史を持つためか、「闘争心」が強い傾向が見られます。米国では、実燃費と公式認証試験によるカタログ燃費の間に数十%の乖離があると、国民は自動車メーカーだけではなく自動車審査機関である米国環境保護庁(EPA)に対しても「何をやってるんだ?」と訴訟を起こします。そこで、EPAは「オフモード」と称し、実燃費に近くなる走行条件や使用条件、環境条件を意図的に設定して各社の自動車の燃費を測定します。その上で、「この自動車のカタログ燃費はこうですが、オフモードによる燃費はこうでした」と公表しています。

 これにより、消費者はカタログ燃費ではなく、オフモードによる「実燃費」を見て自動車を選択できるようになったという効果があります。一方で、オフモードは実際の使用状態では発生しないようなむちゃくちゃな方法──例えば、わざと急加減速を繰り返す、法定速度を大幅に超えて運転する、低速ギアで高回転運転する、エアコンを最大に利かせる、など──を導入しています。そのため、EPAは自動車メーカーから「実燃費の根拠」を求められて、常に窮地に立たされているのが実態であり、問題が解決したとは言えない状態です。

 日本人の平和主義はとても良いことだと思いますが、島国から出ていかねばならないグローバル時代のビジネスにおいては、それでは通用しなくなります。相手は世界中の海千山千の大陸系民族です。彼らの手にかかれば、日本人はイチコロです。ディベーティングの名手になれとは言いません。理にかなわないことには「おかしい」と言い、理にかなうようにするにはどうしたらよいかを考えるロジカルシンキング(論理的思考)の方向に転換すべき時だと思います(参考コラム )。