日産自動車の「キャッシュカイ」が韓国でディフィートデバイス(無効化機能)判定を受けた。設計開発プロセスの革新を実現するモジュラーデザイン(MD)の第一人者であるモノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏は、かつて自動車メーカーでエンジンの技術者として排出ガス低減研究や車両型式認証受験を行った経験を持つ(一人の技術者がモジュラーデザインを確立した軌跡)。日野氏が、現行のディフィートデバイス規定の問題点を指摘し、国土交通省への提言を語る。

モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
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モノづくり経営研究所イマジン所長の日野三十四氏
 日産自動車のSUV(スポーツユーティリティービークル)「キャッシュカイ」(日本名「デュアリス」、「エクストレイル」とプラットフォーム共通車)が、韓国でディフィートデバイス判定を受けて、当局から販売停止命令を受けました。このクルマは、同社が英国で生産して韓国に輸出しているもの。韓国当局の指摘は次の通りです。

エンジンの吸気温が摂氏35℃以上になると窒素酸化物(NOx)の排出量低減に使われる排出ガス再循環(EGR)装置が停止するように設定されていたため、外気温20℃で30分走行したらNOxが規制値の20.8倍に悪化した。これは韓国が定めている「一般的な運転条件で排出ガス部品の機能の低下を禁止している「任意設定の規定」に違反(筆者注:「ディフィートデバイス禁止規定」に違反)している──。

 日産自動車は「キャシュカイは欧州の排出ガス規制『ユーロ6』適合を取得しており、韓国はこれらの規制に適合した車両の輸入・販売を許可している。従って、問題はないはず」と主張しています。しかし「ユーロ6」適合車にディフィートデバイスが装着されていないことが前提なのだから、正当な主張とはいえません。

 外気温20℃で30分後に吸気温が35℃に到達するとしたら、外気温31℃なら遅くとも10分後には吸気温が35℃に到達することでしょう。すると、キャシュカイは10分後にEGRが停止してNOxが20倍に悪化することになります。

 排出ガスを測定する室内の温度は「25±5℃」と定められています。そのため、「外気温31℃であれば規定室内温度を外れているから、10分ぐらいでNOxが規制値の20倍に悪化しても何ら問題ない」と主張するのでしょうか。規制値の20倍というのは、排出ガス装置がない車両よりももっと悪い数値かもしれません。外気温31℃で10分走行するというのは日常茶飯事の走り方です。規定された排出ガス測定条件で規制値をクリアしているから問題ないというならば、それは明らかに排出ガス測定モード狙い撃ちのディフィートデバイスです。

 どのような法律も完璧を期す規定は困難なので、法律には必ずその目的を包括的に書いた部分があります。排出ガス規制法の場合、それは「大気を浄化するために」という文言です。この文言はもちろん法律的に有効なので、「大気を浄化しないようにする装置」は法律違反なのです。

 測定モードはあくまでも規制値への合否を判定するための1つの代表モードです。その代表モードを外れたら極端に悪化してもかまわないというものではありません。規定モード外では規制値の20倍が出てもかまわないという態度をとるとしたら、排出ガス規制法の精神を否定することであり、コーポレートシチズンシップ(企業は市民の一員であるという精神)に欠けるといわざるを得ません。