今回、三菱自動車とスズキで立て続けに不正が発覚し、マスコミも大きく取り上げています。しかし、今回の事件について、自動車メーカーも国交省も「走行抵抗値」だけに限定して店じまいしようとしているように感じるのは、非常に問題です。

 以前から私が言っている通り、国交省が「メーカーとの信頼関係の上で審査する」「メーカーのお膳立ての上で審査する」という現在のやり方を続ける限り、走行抵抗値以外にも数多く存在する不正の温床をそのまま放置することになってしまいます。

 個別の自動車メーカーの「不正暴き&たたき」をしてもキリがありません。私もあまりそういう不毛なことはしたくありません。大切なことは、自動車メーカーが今後、不正への誘惑に駆られることのないように「不正したくてもできない独立的、客観的、第三者的な審査体制」にすることに重点を置くべきです。仮に「そうした体制にすると膨大な費用が掛かるから無理」というのでは、国交省が「審査」という表札を掲げる以上、理由になりません。国交省は、消費者尊重の立場からなんとしてでもそうした体制を実現する職責があります。

 三菱自動車の会長兼最高経営責任者(CEO)の益子修氏は、「米国など海外では不正は一切していないのに、なぜ日本だけで不正したのか理由が分からない」と言っていました。スズキも「海外向け(だけ)はルール通りやっている」と述べています。

 海外は基本的に第三者審査であり、不正ができる余地が少ない(注:それでもかいくぐって不正しようとするメーカーは後を絶たないのですが…)。これに対し、日本は「メーカーお膳立ての上で審査する体制」のため、不正をしようと思えばいとも簡単にできてしまうのです。米国では、審査燃費値と一般使用時の燃費値に乖離がある場合、国民が自動車メーカーだけではなく米国の環境保護庁(EPA、日本の国交省に相当)を「何やってんだ?」と訴えます。日本国民もそういうアクションを起こすのはどうでしょうか。

 ここで皮肉を1つ。国交省から類似の不正の有無を調査して報告するように指示されたトヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどは、「不正はなかった」と報告しました。スズキも「不正はなかった」と言えばよかったのかもしれません。不正がなかったと言えば、国交省は証拠もなしに立ち入り検査することはできないため、「あ、そうか」と“メーカー信頼の原則”にのっとってメーカーの言葉を鵜呑みにします。

 怖いのは内部告発(公益通報)ですが、こればかりは予測できません。でも、万が一(確率的にはそのぐらいでしょう)内部告発されたら、その時に言い訳を考えて言えばいいのです。スズキは中途半端に正直だったような気がしますが、「嘘の上塗り」になりかねない言い訳の方が怖く感じます。

 最後に、真摯にマスコミに対応していた(ように見えた)三菱自動車取締役社長兼最高執行責任者(COO)の相川哲郎氏が引責辞任し、途中からのこのこと顔を出して日産自動車との提携で満面の笑みを振りまいた益子会長が留任するというのは、いかがなものでしょうか。

 三菱自動車の燃費不正は、益子会長が10年間の社長時代に仕込んだ/放置したものであり、社長に就任してわずか2年目の相川社長はそれを引き継いだにすぎません。相川社長は益子社長時代の開発部門の責任者だったからというのであれば、再発防止/未然防止のために具体的な失政/失策を明確にしてから責任を問うべきです。このまま辞められたら永久に迷宮入りになり(それが三菱自動車としては狙いかもしれませんが)、日産自動車は第4、第5の「三菱問題」を抱えてしまう危険性があります。