「事実か?」「見たのか?」の確認

──「芯」とは何でしょうか。

古谷氏:経営を良くするにはどのようなものづくりをすべきなのか、QCDはどうあるべきか、といったことについて確固とした考えを持つことです。

 生産マネージャーに就任してよくあるのが、生産現場から乖離してしまうこと。「管理のための管理」に陥ってしまう可能性があるのです。従って、経営と生産現場を必ずつながなければならない。そのためには、徹底して「三現(現場・現物・現実)主義」を意識する必要があります。

 生産マネージャーのスケジュールを見ると、多くは会議だらけ。仕方がない面がありますが、時間があると会議を開くようなことが常態化すると、どんどん生産現場から離れていってしまいます。「奥の院」にこもっていてはいけません。利益を生むのは生産現場。会議が直接利益を生むわけではありません。

 こうして生産現場を常に意識することが大切です。ただし、生産現場に足を運ぶ際には、生産マネージャーはしっかりとしたものづくりの考え方を持っている必要があります。そうでなければ、生産現場で断片的に生じる表面的な問題に左右される可能性があるからです。確固としたものづくりの考え方があれば、生産現場のその都度の現象に影響されず、適切な判断が下せます。

 生産現場に足を運ぶことが大切といっても、時間は限られていますから、例えば工場長が生産現場の全てをつぶさに見るということは難しいでしょう。そのため、工場長が生産現場に赴いた際には、それぞれの生産現場を受け持つ課長や係長クラスから報告を受けて工場の状態を把握することが現実的です。ただし、その報告を鵜呑みにしてはいけません。理想は工場長が自分の目で確認することですが、それが時間的な制約でできないのです。従って、こうした報告を受けるときには、「君は、本当にその事実を正確に把握しているのか?」「現場に行って現物を自分の目で確認したのか?」と、彼らに確かめる必要があります。

 事例を挙げましょう。稼働率が低い工場がありました。これについて、製造課長が「治具の精度が低いからです。もっと精度の良い治具と交換してください」と主張しました。精度の高い治具は高額だったのですが、それでも「稼働率が上がる」という製造課長の意見を工場長は聞き入れたのです。

 ところが、実際に生産現場でトラブルを見てみると、原因は治具ではなく、設備のメンテナンスをきちんと行っていなかったことでした。では、製造課長はなぜ間違ったことを言ったのかと言えば、実は、製造課長も現場を見ずに部下からの報告を鵜呑みにしていたことが分かりました。しかも、製造課長に報告した部下も現場を確認しておらず、伝聞情報を上に伝えただけでした。生産現場で何が起きているかをつぶさに観察しておけばよかったのに、製造課長はそれを怠ったのです。その結果、ムダな出費をこの工場は余儀なくされたというわけです。

 報告に来る部下に「それは事実か?」「現場で現物を自分の目で見たのか?」などといちいち確認することは、面倒でありムダなことだとも思うかもしれません。でも、こうした事例を知れば、生産マネージャーは部下からの報告が実態を表したものか否かを確認しなければならないことを痛感するはずです。そして大切なのは、それを日々言い続けることです。継続せねば定着なし、です。