「下から陰口を叩かれよ」

──厳しい指摘です。

古谷氏:誤解して欲しくないのですが、工場長を含む生産マネージャーに選ばれるほどですから、皆、モチベーションが高く技術者としても優秀な人材です。工場マネジメントの教育を受けていないため、しかるべき方法や考え方を知らないというだけなのです。工場全体を見たマネジメントの実務と要点を学び、例えば製造課長であれば、その時に必要だった技術や知識、ノウハウを工場長になった際には捨てることも時には必要なのです。

 このとき、部下からは「あの人は偉くなって言うことが変わった」などと陰口をたたかれることがありますが、気にしてはいけません。部分最適な視点でものを考える人からすれば、全体最適の考え方と違いが出ることは、当然のことだからです。個々の部門や課を見ている人が、工場全体をマネジメントする立場になっても同じことを言っているような工場では、もしかしたら部分最適に陥ってしまっているのではないかと、自問自答すべきです。部分最適を回避する過程において、私はよく「大いに下から陰口をたたかれるべし」と指導しています。陰口とは、工場内に部分最適が存在している証拠だからです。

──工場長を含めた生産マネージャーが工場全体をマネジメントする際に、何を身に付けたらよいのでしょうか。

古谷氏:まず、経営というものに対して工場がいかに寄与するかを理解する必要があります。工場運営と経営数字の関連性を把握しなければならないのです。そのためには、例えば工場長であれば「自分はこういう工場を造りたい」というビジョンを持つことが大切です。ただし、そのビジョンは経営数字との連携がとれたものでなければなりません。単にイメージではなく、経営を良くするにはこんな工場をつくる必要があるというビジョンにしなければなりません。

 ビジョンが必要ということから分かる通り、工場マネジメントは小手先のノウハウではなく、「芯」の部分を持たなければなりません。