──どうすれば接合技術をきちんと習得することができるのでしょうか。ポイントを教えてください。

岡本氏:各接合技術について原理・原則まで遡って理解すること大切です。冒頭で述べた通り、今後は世界で勝ち残るために限界設計に挑まなければならなくなります。原理・原則を押さえておかなければ、ギリギリを突くこうした極限のものづくりを実現することはできないのです。

 「基礎的な技術が(十分では)ないと反省している」──。これは、大手自動車メーカーのある役員の言葉です。「技術者にもう一度ものづくりの基礎的な技術を身に付けてもらわないと、まともなもの(競争力のある製品)が造れない」と、大手自動車メーカーが考えているのです。

 しかし、これは当然のことだと思います。ねじ締結や接合、トライボロジーを適用した箇所が、しばしばトラブル源やリコール源になっているからです。これらの技術は一見地味に感じるかもしれません。しかし、きちんとしたものづくりを行うための生命線なのです。だからこそ、この自動車メーカーは今、こうした基礎的な技術の習得に力を入れているのです。「基礎的な技術の原理・原則を押さえてない技術者が、限界設計に挑めるはずがない」と、この自動車メーカーは考えているのでしょう。

 新しい技術は往々にして、基礎的な技術の積み上げです。全くの革新的な技術など、そうはありません。そのため、新しい技術を生み出す上でも、原理・原則をしっかり押さえておく必要があります。

 最近、はんだがなぜ接合するのか分からない技術者が増えています。フラックスの役割を知らない人も多くて驚くほど。最近ははんだ材料の中にフラックスが入っています。そのため、フラックスなどなくてもはんだが接合すると勘違いしている。フラックスという言葉は知っていても、何のためにあるのかを知らない人が多い。そして、はんだの中にフラックスが入っていることを知らない人も少なくありません。

 フラックスは表面に付いている酸化皮膜を還元して取り除き、はんだのぬれ性を向上させるもの。こうしたはんだの原理・原則を知らないままだと、ぬれ性を気にせずにはんだ付けをしてしまうことがある。すると、剥がれてしまったときに、なぜ剥がれてしまったのかというトラブルの原因を追究できません。

 派手な最新技術に目を奪われるのは技術者として仕方がないとしても、基礎的な技術を疎かにするとトラブルに苦しむことになりかねません。これはスポーツも同じ。ボールを止める、蹴るというサッカーの基本がきちんとできないチームに、派手なシュートを決めてワールドカップで優勝するような芸当はできません。