国交省の責任を明確化する一方で、今回の三菱自動車が起こした問題の責任を社員や部長クラスに帰結することは許されません。その背景には必ず経営目標必達という上からの強い圧力が働いているからです。今回は自動車メーカーの問題ですが、昨年発覚した東芝の不正会計問題も含めて上からの圧力に屈して社員が不正を働いている企業は案外多いような気がします。つまり、企業はトップから正していかないといけません。そこで、その具体的な提言を行います。

[1]自分だけ良ければいいと考える人を経営者にしてはならない。特に頼りがいがありそうなカリスマ性が強い人にはそういう傾向がある。1920年代に米General Motors社の社長を務めて全盛のFord Motor Company社を凌駕したアルフレッド・スローン氏のような滅私奉公的な精神を持ち、謙虚で実行力がある人を経営者に選ぶこと。そういう人は社内外に必ずいる。そうした人材を発掘すること。ジム・コリンズ著『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社)を参考のこと。

[2]経営者は、社内に対しては性悪説に立ちつつ、「経営目標の実現結果だけを確認する」というこれまでのマネジメントスタイルから、「実現結果が得られたプロセス(どういう手段で実現したのか?)も併せて確認(プロセス管理)する」ように変えること。

[3]社員は、経営目標の実現の見通しが立たないときは自分の懐で丸め込むのではなく、目標未達の要因は会社の仕組みにあるのだという認識に立って正直に報告すること。

[4]経営者は、告発システムも含めて現場の悪い情報が必ずトップまで上がるシステムを確立すること。ここでは、インセンティブ(動機付け)を与えるぐらいのシステムにすること。

[5]経営者は、科学的経営法を修得しておくこと(トヨタ自動車社長の豊田章男氏のマネジメントにはバブソン大学で取得したMBAが生きている)。

 最後に、マスコミにも一言申したい。会社の不祥事の原因はほとんどの場合、先代の経営者によってつくられます。スローンのような経営者でも負の遺産を引き継いだらすぐにそれを発見し、発見してもいっぺんに清算することはできません。軟着陸させながら清算しようと考えるものです。そのうちに露見してしまうケースがほとんどです。マスコミは先代経営者の責任を、会社更生を期待できる有能な現経営者に押し付けて首級を挙げる愚を犯さないようにしてほしい。三菱自動車会長兼最高経営責任者(CEO)の益子修氏の顔が会見場に見えないし応答もありません。取締役社長兼最高執行責任者(COO)の相川哲郎氏に早々に詰め腹を切らせないでいただきたいと思います。

【編集部注】三菱自動車が2016年4月26日に開いた会見で、「なぜ三菱自動車会長兼最高経営責任者(CEO)の益子修氏が会見に出席しないのか」と報道陣から問われた相川氏は「この問題は執行側の責任だから」と回答した。

 また、2016年4月27日現在、同社のCEOとCOOの辞任が決まったという主旨の一部報道があるが、これらについては「憶測記事であり、そうした事実はない」(同社広報部)という。