──技術者塾の講座「体系的かつ体験的に学べる 製造業向けIoT講座」はどのような内容なのでしょうか。

伊本氏:IoTを基礎から体系的に学べる講座です。まず、体系化している点はかなり珍しいと思います。実は、世界でこの講座だけではないでしょうか? しかも、本講座はハンズオン、すなわち演習を充実させています。これは、IoTの世界では「実際に自分でやってみて、初めて“感覚的”に分かる」という面があるからです。頭の中で理解しただけで「感覚」として分かっていないと、IoT化を具体的な計画に落とし込むことができません。IoTに関する開発を実際に体験することで、IoTに対応するために具体的に何をすべきかを学んでいただきます。それを社内で発展させて、IoTのプロジェクトに利用してもらえればと思います。

 今、社長から「IoTを推進せよ」というミッションが下り、担当者も決まっている日本企業が増えています。ところが、その担当者の多くは、具体的にどうしたらよいのか分からずに困っている状態です。この講座を受講することで、IoTを迅速かつ具体的に進められると自負しています。

──体系的かつ体験的に学べるから、すぐにIoTの世界に飛び込めるということですね。しかしそれでもIoTの漠然としたイメージが拭えない人もいると思います(それは、私のことですが…)。この講座で何を学べるのか、より詳しく教えてください。

伊本氏:第1回~第2回の前半は、製造業の人がIoTを推進するために必要となる基本的な知識、すなわち産業システムとネットワーク、デバイス、プラットフォーム、機械学習(AI)の5つについて学びます。産業システムではIoTの具体例、つまり、各企業がどのようなIoTシステムを組んでいるかについて解説します。先行している農業やIndustrial Internetの分野でどのようなことを目指しているかを知ることができます。

 ネットワークでは、主に無線ネットワークを取り上げます。IoTはほとんど無線ネットワークを使うからです。具体的にはWi-Fi(無線LAN)、Bluetooth、Bluetooth Low Energy(BLE)などの無線通信の仕様とIoTに適したネットワーク設計手法を学びます。各プロトコルがどういう場面に向くか、どのような事例にどのネットワーク設計が適しているかなども習得することができます。

 デバイスでは、センサーとIoTデバイスについて特徴や仕様を学びます。IoTデバイスとは、センサーからデータを取り込んで、インターネット上にあるデータベースにデータを送信するための制御装置のことです。

 プラットフォームとは、インターネット上にあるデータを保存したり、機械学習を行ったりするためのサーバー側ITシステムのこと。具体的には、米Amazon社のクラウドサービス「AWS(Amazon Web Services)IoT」や、米Microsoft社の「Azure IoT」などのことです。これらの仕組みや運用するに当たって必要な知識を学びます。

 機械学習では、どのようなアルゴリズムがあるのかを解説し、一般的な人工知能(AI)を実現する手法に関する説明を行います。

──まずは、基礎から体系的に学ぶというわけですね。では、体験的に学ぶ部分はどうなっているのですか?

伊本氏:第2回の後半~第3回で、ハンズオン(演習)を行います。第2回の後半はIoTデバイスを使ってセンサーから情報を収集する演習と、IoTデバイスを使って制御する演習を行います。ここで使うのは、低価格で使いやすい制御装置であるArduino。IoTデバイスのプロトタイプとしてデファクトスタンダードとなっているものです。ハンズオンとしては、LEDのオン/オフ制御や、フルカラーLEDの発光強度や発光色を変える制御を行う予定です。また、光センサーを使って照度を計測するモニタリングを行う計画です。

 第3回では、Arduinoと同じくIoTデバイスのプロトタイプとしてよく使われる、シングルボードコンピューターの「Raspberry Pi」を使って学習します。Raspberry Piはハードウエアの構成としてCPUやメモリー、補助記憶装置としてのSDカードを備えています。つまり、パソコン(PC)とほぼ同じアーキテクチャを持つもので、OSをインストールして動かすことができます。ネットワークにつなぎやすく、複雑なプログラミングをする際に使いやすいという特徴を持つことからRaspberry Piを選びました。

 ハンズオンでは、センサーからのデータをいったんRaspberry Piに保存した上で、クラウド上にデータを送信します。具体的には、光センサーから照度データを取り込んで保存し、その後、データの分析を行います。進捗次第でグラフ表示や機械学習を使ったSVM(Support Vector Machine)回帰分析(これまでの傾向から将来の傾向を予測すること)まで取り組めればと思っています。

 第4回は、前半でセキュリティに関して学びます。IoTのセキュリティはITとは違う大きな注意点が2つあります。1つは、無線を使う点。ネットワークがほぼ無線になるので、盗聴や電波障害に注意する必要があるのです。

 もう1つは、デバイスが中心となる現場の物理的なセキュリティ。破壊や盗難、「なりすまし」といったものに対するセキュリティです。このうち、なりすましとはこうです。工場内にArduinoを10個だけ設置したはずが、実際には11個ある。実は、余分な1個はスパイが工場に潜入して追加したもので、データを盗んだり、でたらめなデータを流して妨害したりしていた──。このように、IoTではネットワークの世界だけではなく、物理的な世界でもセキュリティが課題になってくるのです。機械ごとに認証しないとデータを盗まれる可能性もあります。もちろん、プラットフォームも存在するので従来のネットワークセキュリティも押さえておく必要があります。

 よく、「IoTではセキュリティが不安だ」という声を聞きます。しかし、これは“お化け”のようなもので、「知らないから怖い」という面があると思います。この講座を受講すればそうした思いは解消できます。セキュリティ対策として何をすればよいかを具体的に学べるからです。

 ただし、現時点では課題もあります。セキュリティと効率の関係です。セキュリティを強化しすぎると、データ処理の効率が落ちるのです。そこで今、セキュリティと効率を両立させる方法を世界中の研究者が考えています。

 第4回の後半では、IoTを生かしたビジネス戦略について学びます。製造業における標準化の動向や、IoTに合わせていろいろな標準化の動向があるので、それらに関する最新動向を解説します。経営戦略を立てる上で、どのような企画を立てるべきかが分かると思います。


──伊本氏のインタビュー──
[1]「製造業のIoTって何?」---理解しづらい理由
[2]「今すぐ飛び込まないと、負けますよ」---製造業のIoT対応
[3]体系的かつ体験的に学ばないと実践できない理由---製造業のIoT対応