──製造業がIoTを導入する際には、どのように進めていくのでしょうか。

伊本氏:既に述べましたが、IoTには[1]見える化、[2]制御、[3]効率改善(QCD)の自動化、の3段階があります。IoTの導入担当者はこれらを段階的に進めていきます。

 まずは見える化のために情報(データ)を収集します。あらゆるデータを取る。理想は、IoTにおけるビッグデータのデータベースがあるとすると、工場のデータや環境のデータ、人事・労務のデータ、経理のデータなどあらゆる種類のデータを収集し、あらゆる方向から分析(多次元分析)して役立つデータ(改善や効率化のデータ)を発見する。そして、それを使った効率改善を自動化していくことにあります。

 ただし、ある程度の時間がかかることを理解しておかなければなりません。個々の企業で差はありますが、[1]の見える化と[2]の制御までに1~3年程度はかかると考えた方がよいでしょう。そして、[3]の効率改善の自動化に入る際には機械学習、すなわち人工知能(AI)が必要です。AIは学習することで徐々に賢くなっていく仕組みなので、学習に時間がかかります。つまり、工場で見える化してデータを収集し始めてから、効率改善の自動化を実現するまでには、それ相応の時間が必要なのです。

──効率改善(QCD)を自動化することができれば、企業の経営者にとってもIoTを導入する価値は十分あるのでしょうね。

伊本氏:IoTの価値はそれだけにとどまりません。経営者がIoTに期待するのはコスト削減と、売り上げの向上です。具体的には、効率改善(QCD)の自動化によるコスト削減と、マスカスタマイゼーション、すなわち個別発注に合わせて生産することによる売り上げの拡大です。 このマスカスタマイゼーションを実現することで新しい戦略が見えてくるのです。IoTを使えば、これまでは複雑すぎてできなかったことやコストが高すぎて不可能だった製品を生産することが可能になるからです。

 製造業で気をつけるべきは、IoTの利点はコスト削減だけではないことです。もちろん、コスト削減ももたらしますが、その点ばかりを強調すると「ITによる生産管理と大して変わらないじゃないか」ということになります。IoTは、ITを超えた先の段階に進めるものです。それが効率改善の「自動化」であり、マスカスタマイゼーションなのです。

 マスカスタマイゼーションでは、1つひとつ違う仕様の製品を注文に合わせて、必要な量だけ生産します。全く違う要求の仕様のものをムダなく効率良く作っていくのです。これを実現すれば、世界でもその企業にしか作れない生産品ができることとなり、国内に限らず海外からも注文を得ることができます。現行の技術では人間が個別に処理する必要があり、カスタマイズ費用が上乗せになっています。これをIoTでは、個々の仕様に応じた部品をAIで予測しながら調達して製品を生産していくことができる。注文量も一定ではありませんが、それを予測しながらムダを最低限に抑えながら作っていくのです。こうして、これまで複雑で非効率だった個別注文を効率的に受けることができるのです。実は、これこそがドイツのIndustrie4.0が目指す姿でもあります。

 繰り返しになりますが、コスト削減だけならITでもできるし、結局は新興国の人件費の低さに日本の工場はなかなか勝てない。IoTを生かして(マス)カスタマイゼーション を実現し、海外進出もして(海外の顧客もつかまえて)売り上げの拡大を目指す。IoTを使えば、中小企業であってもこうした勝負が可能なのです。