國井技術士設計事務所所長の國井良昌氏に聞く
國井技術士設計事務所所長の國井良昌氏に聞く
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 世界のライバル企業や製品に競り負ける日本企業が目立ちつつある。現場は懸命に汗を流しているのに、特徴ある製品が一向に出てこないという悩みを抱える企業は多い。その原因は「設計マネージャーにある」と指摘するのが、國井技術士設計事務所所長の國井良昌氏だ。「技術者塾」で「國井設計塾 世界で戦える設計マネージャー養成講座」の講師を務める國井氏に、多くの日本企業が抱えている設計上の課題と、力強く牽引する設計マネージャーの必要性を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──製造業の設計現場の指導を行っている立場から、日本企業の設計マネージャーの実力をどうみていますか。

國井氏:正直に言いましょう。全般的に日本企業の設計マネージャーの力は弱りつつあると感じます。特にシステム設計力は、どん底だと思います。なぜなら、システム設計者が不在だからです。

 また、以前は大企業と中小企業を比べると、大企業の方に優秀な設計マネージャーが多く存在していました。ところが、ここに来て逆転しつつある印象を受けます。優秀な設計マネージャーは中小企業で目立つようになってきたのです。規模的に、中小企業にとって設計マネージャーの実力低下は死活問題に直結します。そのため、真剣さが違うのでしょう。要は、モチベーションの有無です。

 世界的に有名なある企業(台湾)は、日本の大手メーカーを買収して「経営のガバナンスが利いていない」と語りました。これは日本企業にとって、とても耳の痛い言葉だと思います。この言葉は、すなわち「経営層やマネージャー層は、一体何をやってきたのか?」という意味だからです。世界的な企業から見ると、大手であるにもかかわらず日本企業の経営や管理は物足りないということなのでしょう。

──なぜ、そのような事態を招いてしまったのでしょうか

國井氏:30年ほど前、日本の製造業ではQC(品質管理)サークル活動(以下、QC活動)が盛んで、各社が競い合っていました。日本は統計的品質管理の考え方を米国人のウィリアム・エドワーズ・デミング博士から導入しました。その後、米国では根付かなかったQC活動が、逆に日本では活発になったのです。

 この背景には、経営思想の違いがあると思います。QC活動はボトムアップの思想。ところが、米国企業の経営の多くはトップダウンの思想です。だから、全ての米国企業がQC活動に見向きもしなかった。ところが、日本では現場の第一線で働く人たちがQC活動にいそしみました。その結果、改善が進み、ムダの排除が行われていった。これで日本企業の製品の品質は急伸し、業績が向上して成長軌道を歩んでいったのです。

 では、ここでマネージャー層は何をしたでしょうか? はっきり言えば、楽をしてしまった。ボトムアップで業績が上がるなら、マネージャー層にとってこれほど楽なことはありません。ここから日本企業の弱体化が始まったと言われています。

 今、QC活動が盛んだった企業ほど衰退しています。実名は言えませんが、家電企業のA社とB社、C社です。50歳以上なら誰でも推定できる企業名です。