BMW社が選んだ構造用接着剤とは

──構造接着ではどのような開発が進んでいるのでしょうか。

若林氏:マルチマテリアル構造のボディーでは、鋼やアルミニウム合金、樹脂といった異なる材料同士をくっつける必要があります。各々の材料はみな線膨張係数(熱膨張係数)を持っています。従って、異種材料の接着においては、線膨張係数の異なる材料を接着するために、発生する熱応力を接着剤膜で吸収するような接着が望まれます。

 そこで、構造用接着剤には高い力学的な性能(さまざまな環境における接着強度)はもちろん、硬化収縮や線膨張係数の差で発生する内部の熱応力をどのように緩和(応力緩和)するかが求められます。応力緩和には接着層の弾性を増せば対応できますが、その分、強度が落ちる。強度を高めるには硬くする必要があります。つまり、強度と応力緩和はトレードオフなのです。従って、高強度を維持しつつ応力緩和もできる構造用接着剤が求められます。

 加えて、マルチマテリアル構造のボディーでは、金属に比べて耐熱性が劣る樹脂を接着対象に加えることになります。そのため、従来の接着剤とは違って、170~180℃といった高温を加える塗装の乾燥工程を利用して接着剤を硬化することはできません。加熱せずに硬化する接着剤が必要です。

 さらに、実用化するには接着工程をインラインで処理する、すなわち自動車の生産ラインで使えるように短いタクトタイムに対応することが求められます。要は、室温において短時間で硬化する構造用接着剤が望まれているのです。

 現在、構造用接着剤として開発が進められているものを成分的にみると、エポキシ系接着剤とウレタン系接着剤、そして(化学)反応形アクリル系接着剤があります。これらの中でまだ“決定打”はありません。

 性能は、エポキシ系接着剤と反応形アクリル系接着剤がほぼ同等。これらに対し、ウレタン系接着剤の性能は少し落ちますが、実績では上です。既に、ドイツのBMW社やDaimler社、Audi社が軽量化ボディーにウレタン系接着剤を採用して商品化しています。例えば、CFRPを最も積極的に使っているBMW社は、電気自動車「i3」やプラグインハイブリッド車「i8」、高級セダン「7」シリーズのCFRPの接着にウレタン系接着剤を採用しています。