若林一民氏=エーピーエスリサーチ
若林一民氏=エーピーエスリサーチ
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 ドイツの自動車メーカーが新しい軽量化ボディーを実用化したことがきっかけとなり、日本で接着技術のニーズが高まっている。心配なのは、欧米と日本とでは接着技術の捉え方に違いがあることだと指摘するのが、「技術者塾」において「若林の接着技術講座」〔「接着剤の正しい選び方と使いこなしのノウハウ」(2017年4月21日)と「異種材料の接着と、接着設計&接着評価の考え方」(2017年5月31日)〕の講師を務めるエーピーエスリサーチの若林一民氏だ。欧米では溶接技術と接着技術の双方が同等の価値を持つと捉えられており、それ故に巧みな接合を実現できる素地があるという。同氏に接着技術の動向とそれを取り巻く日本の状況を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──接着技術への関心がここ最近高まっています。接着技術の開発ではどのような動きが見られるのでしょうか。

若林氏:接着に接合を加えた接着・接合技術分野で見ると、構造接着と弾性接着、異種材料接着、異種材料接合の4つで今、活発な研究開発が進んでいます。構造接着は、高い強度や耐久性を要する部材に使う接着技術。弾性接着は、接着層の応力緩和を考えた接着技術。そして、異種材料接着は、異なる性質の材料(被着材)を接着剤で接合する技術。異種材料接合は、接着剤を使わずに直接くっつける技術(例えば金属表面に熱溶融した樹脂を射出成形で接合する技術)です。

 中でも、注目が大きいのは構造接着です。

──それはなぜですか。

若林氏:最大の理由は、自動車業界の軽量化ニーズの高まりです。これまでの鋼を樹脂に、特に複合材料であるガラス繊維強化樹脂(GFRP)や炭素繊維強化樹脂(CFRP)に置き換えてボディーを大幅に軽くしたいというニーズが日増しに強まっています。鋼と樹脂とでは当然、溶接はできない。ボルト締結など機械的締結では部品点数が増えて軽量化効果が薄れる上に、スペースも取ってしまう。そこで構造接着を使いたい、というわけです。

 これまでもクルマには接着剤が多く使われてきたのではないかと思う人がいるかもしれません。しかし、他の業界に比べて使用量は多くありません。建築・建材や土木業界に比べると自動車業界の接着剤の使用量は少ない。その上、従来のクルマの中で接着剤が使われている箇所は、あまり強度を要しない部分。構造接着に使う接着剤、すなわち構造用接着剤はそれほど多く使われてこなかったのです。

 その流れを大きく変えたのが、欧州の自動車メーカーが打ち出した「マルチマテリアル構造」のボディーです。鋼以外に樹脂を含む異なる軽量材料をうまく組み合わせてボディーを構成する。そして、これらの異種材料を強固にくっつける構造接着を実用化したことが、世界中の技術者が接着技術に目を向けるきっかけとなりました。