──なぜ、コストパフォーマンスを重視した製品を日本企業はあまり造らない、もしくは造れないのでしょうか?

國井氏:実は、「造らない」ではなく、「造れない」になってしまいました。

 品質とコストを1科目にまとめることができないからです。日本企業の多くが、品質とコストはそれぞれ別科目であり「両立は難しい」と捉えています。従って、世界の市場で競合する製品が増えて価格が下がっていく中で、日本企業は品質を取るか、それともコストを取るかの二者択一を迫られる。しかし、必ずと言ってよいほど品質を取ります。「品質は絶対だ」とばかりに。そして、コストに背を向けるのです。

 戦後の「安かろう、悪かろう」の反動です。いや、トラウマかもしれません。コストよりも高品質、または、多機能を美徳としたのです。

 これが、いつの間にか多くの日本企業を「過剰品質主義」に導きました。結果、機能や外観品質にほとんど関係のない箇所の品質、例えばクルマのトランクの裏板に付いたほんの小さな傷のようなものまで気にするような顧客を日本企業が育ててしまいました。白物家電では、本来の機能から外れた“おまけ”の機能を付けることに躍起になりました。例えば、風呂の脱衣場に設置する洗濯機にエアコンを付けてみたり、液晶テレビにマイナスイオン発生装置を付けてみたり…。最近の蚊取り機能付きの空気清浄器には絶句しましたよ。

 こうした過剰品質に走る日本企業の隙を突いたのが、先のSamsung社や韓国LG Electronics社、そして中国Haier社といった企業だったのです。彼らは日本製品を徹底的に分析し、過剰な品質(機能や外観品質など)を差し引いて、必要な機能だけを抽出した製品を造って世界の市場に投入し始めました。これを日本企業は「安っぽい製品」と見ていたのでしょうか。現に、日本市場では彼らの製品はあまり受け入れられませんでした。ところが、世界にはそれらを喜んで受け入れる市場がたくさんありました。世界には、過剰品質よりもコストパフォーマンスに優れる製品を望む顧客の方がはるかに多く存在したからです。こういう話をすると、ガラパゴス化という残念な単語が浮かんできてしまいますね。