豊田エンジニアリングCEOの堀切俊雄氏
豊田エンジニアリングCEOの堀切俊雄氏
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 トヨタ生産方式(TPS)が「リーン・プロダクション・システム」と呼ばれて海外企業で導入意欲が高まっている。海外企業がTPSに興味を持つきっかけは、やはりトヨタ自動車の好調な業績だが、それ以上にTPSの本質を知ることでさらにTPSに魅了され、導入意欲を高めるという。翻って日本ではTPSについて知らない企業がないほど広く知られているが、「トヨタだからできること」といった意見が少なくない。TPSの本質とは何か。豊田エンジニアリングCEOの堀切俊雄氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

トヨタ自動車が実施している現在のTPSを、堀切先生は「トータルTPS」として紹介しています。TPSというと生産現場の原価低減を思い浮かべる人が多いと思いますが、トータルTPSとは何が異なるのでしょうか。

堀切氏:最初に世間の誤解を解いておかなければなりません。確かに、TPSというと生産現場のムダ取りや改善をイメージする人が多いのですが、それは30年以上前のTPSの姿です。トヨタ自動車が現在実施している本家本元のTPSであり、私が対外的に「トータルTPS」と呼んで説明しているTPSは、生産現場の改善に限定したものではありません。この誤解は恐らく、「生産方式」という名前が付いているからだと思います。しかし、TPSは生産現場に限られていたかつての状態から拡大・発展し、今では「経営思想」とも呼べるものとなっています。

 どういうことかと言うと、トータルTPSでは、[1]改善を工場内にとどめず、開発設計や生産準備、さらには販売など間接部門にも広げています。加えて、[2]製品や生産ラインといった「もの」だけではなく、働く人の意欲を高める活動を強化しています。さらに[3]改善の内容を、品質改善や原価低減活動、従業員への育成など多方面に拡大しています。

 トヨタ自動車はTPSを進化させています。ところが、世間の多くの人のイメージは昔のTPSの姿のままで止まってしまっているのではないでしょうか。鬼のように怖い改善コンサルタントが従業員を叱り飛ばしながらムダを指摘し、それを強制的に直させて無理矢理成果を出す、というイメージを持つ人が未だにいるのでは?

 また、「トヨタ」という固有名詞が付いているための誤解もあります。トヨタ生産方式という名前から、「あれは1企業の特殊なやり方だ。当社には合わない」というものです。そこで、私はトヨタグループ以外の企業でもTPSを導入できるように改良しました。それがトータルTPSなのです。