ディーゼルエンジンの開発は続く


──原価低減や車体価格の上乗せに、VW社も努めればよかったのでしょうね。

藤村氏:そうだとは思いますが、厳しい米国の排出ガス規制を満たすには、当時でもかなりのことをしなければならなかったことでしょう。すごくコストが上がっていたはずです。Daimler社やBMW社に比べてVW社は導入した車格が低い分、大変だったと思います。

──ディーゼルエンジンの排出ガス浄化システムの開発は、今でも進んでいるのですか。

藤村氏:各メーカーで進んでいます。現在、NOx触媒システムには2つあり、NOx吸蔵還元触媒と尿素選択還元触媒(U-SCR)です。U-SCRは尿素を酸化触媒で酸化してアンモニアにし、アンモニアを還元剤にして、NOxを窒素(N2)に還元するものです。前者は軽量車に、後者は中・重量車に使われています。

 今回VW社が不正を行ったことで、「ディーゼルは本来クリーンではないのでは?」という情報がメディアの間で飛び交っていますが、そんなことはありません。排出ガス浄化技術は日々めざましくレベルアップしています。これからもクリーンディーゼル車が地球環境に貢献していくことは間違いのない事実であると考えます。

──このVW社の排出ガス不正問題から日本企業が「他山の石」とすべきことはありますか。

藤村氏:企業統治の進め方、企業の社会責任という観点で、考えるべきことがたくさんあると思います。VW社の企業統治に関しては、これまでもいろいろ問題があると言われてきました。今回の件は、やはり世界一の販売台数を達成することが最大の目標となり、利益を優先してしまったことに最大の要因があったのではないかと考えます。本来企業が目指すべき、お客様のため、社会のために貢献するという部分がおろそかになった結果、今回の不正が起きてしまった。ドイツ、VW社独特の監査役会(これまでもたびたび非難されてきました)もしっかり機能していなかったのではないかと思います。

 役員に倫理観のある人をそろえ、役員をしっかりと監査する社外取締役もいないと、いくら素晴らしい企業と言われていてもあるところでつまずくことがあるかもしれません。トップは特にしっかりした企業倫理観を持ち、「お客様第一」で常に誠意を持って対応する人であるべきだと思います。

 VW社ほどの規模の会社が傾くと、ドイツや欧州はもちろん、世界経済に影響する可能性があります。今回の問題はかなり根が深いと思いますが、VW社が倒れてはやはり困ります。原因や責任を明確にした上で、すみやかにお客様への対応を進め、これから企業統治のやり方を根本的に見直すべきですね。そうして早く復活してもらいたいと思っています。