──パワートレーンが先か、ボディーが先か。どちらが先でも、あまり優位性に大きな差はないような気がするのですが…。

若林氏:もちろん条件次第で変わりますが、私はドイツの自動車メーカーの方が近い将来に優位に立つ可能性があると思います。というのは、構造用材料の開発の方がHEVの開発よりも耐久性評価などにおいて時間がかかると考えられるからです。

 まず、材料の開発は電子部品などよりも時間がかかります。しかも、ボディーは強度や耐久性が乗員の命に直結します。破損すれば人が車外に放り出されるかもしれません。しかも、ボディーに使う構造用材料の開発は、基本的に材料技術者だけで対応しなければならない。アウトソーシングも難しい。つまり、社内外を含めて開発リソースは限られています。

 これに対し、ハイブリッドシステムは故障しても動作が止まるだけ。もちろん、運転中に急に止まっては危険ですが、即、人を傷つけるわけではありません。加えて、ハイブリッドシステムを構成する部品は、多くの自動車部品メーカーや電機・電子部品メーカーが開発しています。つまり、社内外を含めて開発リソースは厚い。

 ドイツの自動車メーカーはこう考えています。先にボディーを軽くしておこう。ハイブリッドシステムなど電動化システムを構成する電機・電子部品は進化が速く、今後も進化の余地は大きい。本気で開発すれば、もしくはアウトソーシングすれば、比較的早く先行メーカー(日本の自動車メーカー)に追いつけるだろう。だから、我々は開発に時間がかかるCFRP製ボディーを先に開発しておこう──と。

 新しい材料を採用したボディーを実用化する場合、恐らく技術の蓄積に10年は必要です。ということは、BMW社は10年以上前にCFRP製ボディーの開発を始めた可能性がある。もしも、日本の自動車メーカーがCFRP製ボディーの本格的な開発に今から着手するとしたら、実用化までに10年を要するかもしれません。

 要は、次世代の低燃費競争をにらみ、ドイツの自動車メーカーは先により難しいボディーの開発を進めた。一方の日本の自動車メーカーは今後、難しいボディー開発に挑まなければならない。こうした理由から、今後ドイツの自動車メーカーが優位に立つ可能性が高いのではないかと私はみているのです。