──どのような戦略でしょうか。

若林氏:自動車業界では現在パワートレーンの電動化が盛んに議論されていますが、ドイツの自動車メーカーは「しばらくはエンジン車が主流となる」とみているようです。すると、今後の厳しい二酸化炭素排出量の規制をエンジン車で満たすには、車体をもっと軽量化しなければならない。ところが、エンジン車は完成度が高く、パワートレーンを含むシャシーの部分は軽量化の余地が小さい。熱や強度などの条件から、材料には鋼や冷間圧延鋼板(SPCC)、アルミニウム合金などを中心に使わざるを得ないからです。要は、現行の金属を代替する材料を選択するのは難しい。

 となると、残る選択肢はボディーとなる。つまり、ボディーをいかに軽くするかが今後のクルマづくりのカギを握るとドイツの自動車メーカーはみているということです。

 ボディーの軽量化では今、鋼板を部分的に薄くする工夫や、軽合金であるアルミニウム合金やマグネシウム合金を使う工夫などが考えられています。でも、さまざまな材料を考慮すると、軽さと強度など性能のバランスが最も優れていると考えられるのが炭素繊維強化樹脂(CFRP)です。

 当然ながら、クルマはアセンブリー品なのでボディーも部材を組み立てて造る必要がある。しかし、CFRPは樹脂なので金属とは違って溶接はできず、ボルトなどの機械的な締結か接着剤を使うしかない。

 つまり、ドイツの自動車メーカーが構造用接着剤を積極的に使う背景には、ボディーを軽くするためにCFRPを使いたいという戦略がある。そして、それを実現するためには接合に接着剤が必要だということです。逆に言えば、しっかりした接着剤がなければ、CFRP製ボディーの設計は成り立ちません。